途方に暮れていると、武本さんのもとに朗報が。とある猫カフェのオーナーが、現在賃貸契約しているビルに猫を全頭移してもいいと言ってくれたという。猫カフェを訪れると、オーナーは私たちが猫の保護や譲渡に関して素人であることを理解し、一からレクチャーしてくれた。
3月17日、ついに猫の移動の日。武本さんの呼びかけで手伝いの方も数人来てくれることになり施設に集まると、武本さんが浮かない顔をしている。聞けば前日の深夜、オーナーから「場所は提供できない」とのメールが届いたという。
そして追い打ちをかけるように、隅田さんからも「猫の所有権を渡すわけにはいかない」と連絡があった。どうやら猫カフェを訪れた日の夜、移動の噂を聞きつけた隅田さんはオーナーに連絡を取り、何か吹き込んだらしい。私たちの計画は頓挫した。
里親探しに限界を感じ、考えついた作戦は……
猫の命がかかっているのに、なぜ足を引っ張るのだろう。移動の手伝いに来てくれていた一人が法律に詳しく、「隅田さんは権利を主張できないはずだ」と教えてくれたので、その事実を伝えて呼び出すことに。施設に現れた彼女は開口一番、「私が何かかき乱したようで、すみません」と小さく謝り、そそくさと去っていった。結局、何が目的だったのかは今もわからない。
ただ、彼女は自分の利益のために行動している節があった。被害者が団結して反撃し始めたのを見て、手を引いたほうがいいと判断したのではないか。
問題が一つ解決したとはいえ、猫の移動先はまた一から探さなければならない。知人に声をかけても里親は見つからず、4月に突入。交代で世話をしながら53匹の猫を譲渡するのは不可能だと悟った私は、SNSでの大々的な募集を提案した。投稿タイトルは、「保護猫施設の詐欺事件被害者が猫を救う」。
すると、事件のその後を案じる人たちから問い合わせが殺到し、同時に里親希望者も現れた。だが、安易に譲渡して何かトラブルがあってはいけない。猫の健康状態や世話の様子をできる限り写真や動画で紹介し、ついに第1号の里親に猫を引き渡すことができたのだ。