人間だけが持つ「認知能力」

人類が動物と大きく異なる道を歩みはじめたことを、認知革命という表現で明らかにしたのが世界的ベストセラー『サピエンス全史』(河出書房新社)を著したユヴァル・ノア・ハラリです。

彼は、人類が集団で生活していく上で、宗教やブランドといった目に見えない「虚構」が重要な役割を果たしたと言っています。

同書でハラリは、私たち人類の歴史上で大きな役割を果たした「3つの革命」の一つとして、7万年前に「虚構の言語の出現」という形で起きた「認知革命」を挙げています。

これによって「国民」「部族の精霊」「有限責任会社」「人権」といった、現実には存在しないものについての情報を伝える能力が備わることで、非常に多くの見知らぬ人同士の協力や、社会的行動の迅速な革新が可能になり、そのことが私たちを特別な存在にした――というのが同氏の見解です。

「国民」「部族の精霊」「有限責任会社」「人権」というのは、具体的な事象ではなく抽象概念そのものです。つまり、人間は抽象概念を有することで、社会的活動を営むことが可能になり、それが他の動物と違う決定的な知的能力となったというのです。

『見えないものを見る「抽象の目」――「具体の谷」からの脱出 』(著:細谷 功/中公新書ラクレ)