「認知革命」によって、人類が動物と大きく異なる道を歩みはじめた――(提供:photoAC)
私たちの生きる世界は、VUCAと言われる不確実で先の見えない時代に突入したと言われています。2020年初頭からコロナやウクライナ紛争など思いもよらない事態を招き、日常生活ではスマホの普及やGAFAMと呼ばれるプラットフォーマーの台頭等により、デジタルを中心とした「見えないもの」に支配されている――。ビジネスコンサルタントの細谷功氏が、これからの時代を生き残る鍵となる思考力を鍛えるため、「具体と抽象」のテーマに当てはめながら、この「見えないもの」を見えるようにするための考え方を提供します。第2回は、人間だけが持つ「抽象の世界」と、それがもたらした功績について、お伝えします。

※VUCA…Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)頭文字を取った造語で、時代の特性を表す
※GAFAM…世界的な力を持った巨大IT企業(Google、Amazon、Facebook(現:Meta Platforms)、Apple、Microsoft)の頭文字を取った呼び名

動物と人間は認識している世界が違う

動物と異なり、言葉や数字、あるいはお金という抽象概念によって「見えない世界」を飛躍的に拡大してきた人類は、デジタル化という形でそれをさらに拡大しつつあるのです。

人間には様々な「見えないもの」が見えています。簡単に言えば、見えるものというのは物理的にそこに存在しているものであり、動物でもなんでも客観的に見ることができます。つまり、動物が見ている世界と人間が見ている世界の違いは、人間はむしろ物理的でないもの(見えないもの)の世界のほうが圧倒的に大きいという点にあります。

対する動物は、ほとんどが見えている世界で(これも勝手な想像と言えば勝手な想像なのですが、動物の目に見える動きから推論しているだけとも言えます)、極めて限られたものしか見えていないと言えます。

さらに言えば、人間にも大きく分けて2通りの人がいて、抽象度の高い世界が見えている人と見えていない人がいます。

もちろん白か黒か、2通りの対極の人がいるわけではなく、無限のグレーの段階が存在し、濃いと薄いの違いがあるだけですが、特徴を表すために2通りという表現をしています(例えば「世の中には甘いものが好きな人と嫌いな人がいる」と言っているようなものです)。

動物と人間の間に「世界の大きさの違い」があるのと同様に(もしかするとそれ以上に)抽象度の高い世界が見えている人と見えていない人とでは、周りからは同様の人生を歩んでいるように見えても、実はその内面には天文学的な差がある可能性があるのです。