「「好き」という気持ちは飽きるけれど、「必要」という関係は飽きないし、この先ずっと続くもの。」(渡辺さん)

ケンカのありようも変化して

小川 意外と思われるけど、うちはあまりケンカしないの。たまにやりあっても、私がいつも折れる。「こっちが100パーセント悪くはない」と思っても、「ごめんね」と言ってしまう。そうすると、向こうも自分が悪かったのをわかってるから「ああ、こっちもごめん」となって、意外と早く終わる。

渡辺 ケンカのありようも夫婦それぞれだね。

小川 そりゃあ、日常でイライラすることもあるけどね。「お風呂に入る」と言うので準備したのに、いつまでたっても入らない。部屋に見に行ったら、が~っと寝てる。「じゃあ、私が先に入りたかったのに」とか。でも、向こうも私のせっかちさにイライラしてることもあると思うし、お互いさま。ともかく、不穏な空気のまま、ごはんを食べたくないの。

渡辺 ああ、食事の時間は大事。

小川 若い頃は、大きなケンカをして、そのままごはんを無言で食べる、というのもあったけれど、31年も一緒にいて、先も短い。あと何食、一緒に食べられるかわからないと思うと……。もともと私は、「くそっ!」と思っても、チョコレートひとつつまむと、けっこう忘れちゃうタチだし。

渡辺 菜摘はそういう感じだよ。

小川 でも、言いたいことはちゃんと言う。そこはしっかりとね。

渡辺 うちの場合、長年ケンカをしてきてると、変化もあるのよ。結婚したての頃は、郁恵は体のデカい俺に負けちゃいけないと思うのか、5メートル先から走ってきて、俺に飛びかかってくる(笑)。それが次第にケンカ上手になったというか、今は怒りの沸点に到達する前に「何よ」「何だ」と小さく噴出させて、「じゃあ、メシ食おうか」となる。そのあたりの加減が熟練の技みたいになってきてるね。

小川 私たちの年齢って、夫婦ともに順調に老いてきているでしょう。昨日も夫が「ほら、おまえが舞台を一緒にやった、あの俳優さん、誰やったっけ」と、名前が出てこない。でも、忘れっぽくなるとか、こっちも同じだしね。彼も私も、電子レンジでチンして、そのまま忘れるのはしょっちゅう。

渡辺 郁恵もよくやってる。

小川 お互いに補い合わなくちゃいけないことが増えて、この頃は、そこが愛おしく思える。

渡辺 うちは寝室を絶対に別々にしてくれないのよ。俺は本を読みながら寝たいから、明かりをつけたい。妻は暗くしたい。室内の温度も「暑い」「寒い」で揉めるし。でも、別々の部屋にはしないのは、ロマンチックとかではなくて、彼女が言うには、「何かあったときに、すぐにフォローできるから」と。異変は夜中に多いっていうし。

小川 生存確認よ。心臓発作とか起こしてもおかしくない年齢だもの。うちも、お互いに健康が心配で、最近、血圧が高い夫のために食事療法とかサプリとかいろいろやってみて、「下がったわ、血圧」「よっしゃあ」。これもお互いさまで、健康診断で私のコレステロール値が高いと、「おまえ、そんなん食うなや」と夫が注意してくれる。ありがたいし、ここにきて頼れる存在よね。

渡辺 いなきゃ困る存在になってる。「好き」という気持ちは飽きるけれど、「必要」という関係は飽きないし、この先ずっと続くもの。