ところが音読のトレーニングによって、心身ともに変化を感じられた。たとえば、音読のクラスはストレッチと呼吸法から始めます。胸のあたりの筋肉が硬いと肺に入る空気の量が少ないので、発声を職業としている人は、声帯だけでなく全身の筋肉を使って発声します。柔軟性と筋力の両方が必要なのです。

正しい呼吸法を行うと自律神経が整いますし、声を出すことで喉や顔の筋肉も鍛えられます。私の教室にも、病後で弱々しい声しか出せなかったのに、徐々に力強い声が出るようになり、やがて見た目の雰囲気まで若々しく変わっていった方がいらっしゃるんですよ。

さらに朗読となると、テキストを読み込み、自分なりの解釈を深めるといった、音読とは別の脳の使い方をします。私も朗読に向く作品を探すため、それまで読んだことのなかった作品にたくさん触れるようになりましたが、教室の皆さんも興味の幅が広がって、図書館や書店に足しげく通うようになったそうです。

長い人生でさまざまな経験を得てきた人のほうが、解釈が深まることもあるでしょう。そういう意味でよりシニア世代に向いていると思いますし、音読や朗読が健康維持に大きく貢献するのではないかと考えるようになったのです。

 

大変な結婚生活もいまは

私が、少しでも誰かの役に立ちたいと考えるのは、社会と隔絶された時間が長かったからかもしれません。再婚当時、長女は10歳。微妙な年頃ですし、夫とひとつ屋根の下で暮らすことになる娘の気持ちを考えると、私は専業主婦となり、きちんと家族関係を築くことを優先しようという思いがありました。

でもそれ以上に、夫は私が働くことも、自分の知らない人と連絡を取り合うこともいやがりました。女友だちと夜食事に行くことさえ許されず、携帯電話のアドレス帳も消され、パソコンも処分され、物理的に誰とも連絡が取れなくなってしまったのです。

このことで、夫とはずいぶん喧嘩もしました。でもどうにもならなかった。そうこうしているうちに昔の仕事仲間が活躍するのを見るのがつらくて、だんだんテレビも見なくなりました。