すべての世代の弱っている人へ向けて描いている
山口 わが家の3人の子どもたちもこの絵本を読んで、それぞれ感想が違っていて、それもまた面白いです。思春期の長女はすぐに感想を言ってくれませんでしたが、小学6年生の長男は「すごく寂しい、悲しいお話。子牛はママに会いたかっただろうね。ご飯は残さずに食べなきゃいけないよね」って。一番下の次女はまだ「こうしがたべられちゃうの?」というぐらいの理解力ですが、何度も読むうちになんとなくわかってきて、「ちゃんと食べなきゃいけないね」と話しています。私も「牛さんにもお母さんがいて、みんな繋がっているんだよ」と、子どもたちとさまざまな話をするようになりました。
はせがわ お子さんでも、大人の方でも、それぞれ意見が違いますよね。
山口 だからこそ、私はこの絵本を学校に寄付したらいいと思うんです。生徒みんなで、「私はこう思った」「僕はこうだ」と討論する時間もいいのではないかなって。子どもが50人いたら、みんな違う感想を持ちそうな作品です。生きることがつらいと今思っている方にも、そっと心に触れて何かを感じ取ってもらえるところがあるはず。
はせがわ 本当にそうですね。でも、あまり前向きにとらえない方もいるかもしれません。その場合も、反論はできないです。それぞれの価値観があって、みんな違うんだなと感じます。
山口 衝撃を受けるぐらいのものじゃないと、人の心は響かないですからね。良い作品ほど批判もされることもあります。
はせがわ 絵本を出すにあたって、最初に少し不安だったのは、このテーマだといろいろな意見が来るかなと。実際には、あまり批判はいただかないですが、たまにそんな考えもあるんだなというご意見もあります。だから、版元さんには、よくぞこれを出してくださったという気持ちがあって。この絵本には、一応「5歳から」という対象年齢はありますが、自分の中では対象年齢ってないんですよ。どの世代においても、弱っている人へ向けて、描いています。
山口 わぁ、素敵です。はせがわ先生の根底にある思いに、私は心を揺さぶられたんだなって再認識できました。だから、私は『もうじきたべられるぼく』と出会えて良かったです。