生活が豊かになっても、心は豊かじゃない

山口 本当にこの絵本は絵が素敵ですよね。もしもお話だけだったら悲しくて読めない子もいるかもしれませんが、そのお話をあたたかくふんわりと包んでくれる素敵な絵の力があります。言葉だったら、私が一番好きなところは、最後の「せめてぼくをたべた人が自分のいのちを大切にしてくれたらいいな」という一文。

でも、読んだからじゃあもうお肉を食べない、というのではなく、お肉をいただく、命をいただくんだから頑張って生きていけたらいいねって。この一文に込められた「ぼく」の気持ちを考えたら、すごく前向きな絵本。食育にもいい話かもしれませんが、それだけの話ではない、奥の深い物語なんです。何も動物だけのお話ではなく、違う世界でも、人間に置き換えて当てはめて考えることもできるのかなって。いろんな読み方ができて無限に可能性を広げる1冊だと思いました。

はせがわ そんなふうに言ってもらえて、もう、胸がいっぱいで、何も言えません。ただ、食育という言葉については、自分で創るときにはそんなことは全然考えていなくて、後から言われて、そういうことにもいいのかもしれないと。作者も肉は食べていますし(笑)、でも食べる前にちゃんと手を合わせています。それより「ぼく」が、自分があんなにピンチの状況でも母親の気持ちを思っている、そういう部分を感じていただけたら。

山口 そうですよね。

はせがわ これは後付けなんですが、日本は残飯率が高くて、それはすごく恥ずかしいことですよね。生活が豊かになっても、心は豊かじゃないような気がします。この絵本を読むことで、多少は「残さないように食べよう」という気持ちになる子どもたちが増えたらいいなと。

山口 先進国で、日本の残飯量は本当にひどいですものね。1日、茶碗1杯、国民ひとりあたりの残飯が出ていたと思います。
※農林水産省・環境省調べ、FAO、総務省人口推計(2017年)。

私は子どもにいろいろな絵本を読ませていますが、可愛いだけとか楽しいだけではなくて、「これを読んだからじゃあどう考える、自分はどう感じる」と、一歩先に進む絵本がもっとあってもいいと思っていて。それこそ賛否両論生まれる作品でも、子どもだけでなく、大人も、その先にまで話を広げられる作品が良いですよね。

わが家の場合、子どもの年齢も離れているので、映画ひとつ、遊び場ひとつとっても、それぞれ好みが違います。週末は夫がいなくて、私はワンオペになるのですが、3人ともが満足するものを考えるのは結構大変なんです。そんな中でも、本はよく読むようにしていますね。子どもたちの部屋にそれぞれ本棚があって、さらに共有の場所にも本棚があって、次女は上の子たちが読んだ絵本をそのまま読んでいます。