(イラスト:横尾智子)
少子化の進む日本ですが、社会的養護の下に置かれている子供(要保護児童)は、平成30年度、全国で4万4,258人と18歳未満の児童全体の約0.2%を占め、10年前からほとんどその数に変化がありません。要保護児童の半数以上はネグレクトなども含む保護者からの虐待を受けていますが、児童相談所に一時保護された児童の半数は家庭に戻されています。(『要保護児童の社会的養護に関する実態調査結果報告書』総務省・令和2年12月調査結果より)

里田愛子さん(仮名・大阪府・無職・73歳)は、「児童養護施設に預けている息子たちを迎えに行きたい」と話す男に押し切られ、結婚。やっと子どもたちを迎えることができましたが――。

前編よりつづく

今日から、私があなたたちのお母さんよ

家に着いてすぐ、私の手編みのベストを着せてあげると、嬉しそうに笑う2人。引き取って本当によかった。子どもたちには、本当の母親ではないことを伝えたうえで、「今日から、私があなたたちのお母さんよ」と言って聞かせました。

顔が傷だらけの長男に、「どうしたの?」と聞くと、「おやつを大きな子が取ったからケンカした」と言います。少ししかないおやつを取られまいと、必死で頑張ったんやなと思ったら涙が出ました。「いっぱいおやつを食べさせてあげるからね」と、頭と顔を撫でてやりました。私が産んだわけではないのに、とてもかわいく、愛おしい。この気持ちはなんだろう。

次男はおとなしく、されるがままで、おしゃべりもあまりしません。施設から急に連れてこられて、とまどっているのかもしれない。とはいえ、私も新米の母。ちょっとでも私に懐いてくれるように、家に慣れてくれるようにと、散歩したり、スーパーや公園に行ったり、一緒の時間を過ごすようにしました。

教えたいことは数えきれないほどあり、それは2人にとっても楽しく珍しいことばかりだったようで、すぐに私に懐いてくれました。

しかし父親には懐かず、銭湯に行っても一緒に入るのが嫌で泣き出してしまう。施設の先生は女性が多く、男の人に慣れていないのだろうと思い、いろいろ努力してみましたが効果がありません。

そもそも夫が、子ども好きではないのかもしれない。その証拠に、遊んだり、話しかけたりをまったくしません。「3年も施設に預けていたのだから、そのぶん愛情を子どもに返さないと」と言っても、仕事から帰って、ご飯を食べると寝てしまいます。もういい。私だけで育てる。

ある日、近くの公園へ遊びに出た兄弟を迎えに行った時のこと。雨が降った翌日だったからか、滑り台の下が水溜まりになっていて、滑っては水溜まりにバシャンと飛び込み、また滑っては飛び込みと、2人は泥だらけになって楽しそうに遊んでいます。真っ黒で、誰が誰だかわからない。

叱る気にもなれず、「今日は楽しかったね。3人だけの秘密ね」と、みんなで大笑いしながら帰りました。子どもって天使みたい。かわいくてしょうがない。のびのび育ってくれてありがとう。