シュッ、シュッ、シュッと、やすりで木を磨く音が室内に響き渡る。(撮影:福森クニヒロ)
認知症になったら、仕事や社会活動からは遠ざかるしかない――そんな古いイメージが塗り替えられつつある。たとえ症状があっても、尊厳を持って生き生きと働ける。新たな試みを進める場所を訪ねてみた(撮影=福森クニヒロ)

ふるさと納税の返礼品にも選ばれて――sitte

京都市の中心地にあるコンセプトショップ、mumokuteki京都店。入口すぐのコーナーに、木目の美しいまな板やカッティングボードが並んでいる。

実はこれらの木工品は、sitte(シッテ)というプロジェクト発の商品。介護施設に通う人たちが仕上げ作業を担当したものだ。メンバーの中には認知症の方も多い。

本プロジェクトを進める、京都市内の「高齢者福祉施設 京都市西院老人デイサービスセンター」を訪ねた。作業スペースは施設の2階で、日当たりが良く、コロナ対策で開け放たれた窓から爽やかな秋風が吹き込む。

ロの字型に並んだ机には6名の利用者さんがスタンバイ。各人の手元には木の箱、紙やすり、ティッシュなどが用意されている。

「今日も『からすみ』を入れる箱の作業です。今から説明しますね。皆さんは、からすみを食べたことがありますか?」

メンバーに説明するのは施設職員の作業療法士であり、プロジェクトの生みの親のひとりでもある田端重樹さんだ。田端さんの話が終わると、シュッ、シュッ、シュッと、やすりで木を磨く音が室内に響き渡る。

スタッフに箱を支えてもらいながら、真剣な面持ちで少しずつ作業を進める車椅子の女性。その隣では、元大工の男性がスタッフに話しかけながら手際よくやすり掛けを続けている。

競うことも追い立てられることもなく、皆マイペースかつ真剣な表情。私も少しだけ体験させてもらったが、見ているよりも難しく根気のいる作業だ。