作業が終わってしばらくすると、その日何をしたか忘れてしまうメンバーも多い。
「けれどその1時間は、やりがいを感じてくれているようです。記憶することより『体験』そのものが大事。体験から得た感覚は残っていますから」
21年には京都府内で唯一、林業の専門科がある北桑田高校の生徒たちとのコラボレーションも実現。台風被害を受けた鞍馬寺の風倒木を再利用した記念品の製作を手がけた。高校生たちは仕上がりを見て、「どの面もまったく同じ触り心地で、ひとつも手抜きがない」と驚いたという。
「地元民にとって鞍馬寺というのは大切な場所。皆さん『徳が上がる、徳が上がる』と言いながら作業に集中していましたね」と、田端さんは笑う。
作業報酬として木工品1点につき500円相当の金券が支払われる。これは地元の京都三条会商店街がsitteのため特別に作ってくれた商品券だ。京都でも一番距離の長いアーケード商店街の約180店舗で使える。利用価値の高さは、現金にも決して劣らない。
「ただ、商店街の入口に美味しい漬物屋さんがあって、皆さん、そこで使い切ってしまうことが多くて。たくさんお店があるのに、なかなか奥まで辿りつけないんです(笑)」(田端さん)
地場産の木で木工品を製作し、地元の人気店で販売する。得た報酬を使って商店街で買い物を楽しむ。そこにあるのは「認知症患者」という存在ではなく、地域社会に参加して当たり前の日常を楽しむ市民の姿だ。ものづくりを通じて地域とつながり、地域の役に立てることは、メンバー全員の誇りでもある。