グアム島の磯で父・慎太郎さんと(写真提供◎石原良純さん)

子ども部屋は4人兄弟で一つだった

僕が生まれ育った石原家は、すべてが父親本位で動いていました。たとえば家を建てる時にも、親父専用の寝室と書庫とアトリエがあるうえ、親父の友達のためにでっかい客間を用意する。それから玄関が広くて、長い階段があるのが好み。家の7割以上は親父の趣味に費やされて、残りの部分にちっちゃな居間と子ども部屋が一つ。4人兄弟で1部屋なんです。(笑)

作家業で昼夜逆転していたから、父親が起きるまで、男の子4人は息を殺して静かにする。夕飯は子どもと食べると騒がしくて食べた気がしないというので、母子と親父一人の2部制。それが流儀でした。

テレビを見ていると、たまに親父が出てくる。するとやっぱり怖い。怒ってるんですよ。子ども心に、家にいる時と同じだと思いました。「ビール持ってこい」「まだ飯できないのか」「良純、テレビ、野球に替えろ」。そうやって矢継ぎ早に言う姿と、テレビで「お前らに何がわかるのか」ってやっている姿は同じで、本当にそういう人なんだなって。

後々気づいたんですけど、怒っているんじゃなくて、そういうリズムで生きているだけ。自分の思いを早く理解してもらいたいとか、次の行動に移りたいと思って、イライラする。だから言葉が強くなったり声が大きくなったりするんですね。

大人になってからも、早口で「結婚しないのか」「小説書いているか」「服のセンスが悪いな」。彼にしてみると、パパパッと的確に伝えたほうが親切だろうと思ってるんだな。けなしているわけじゃなくて、改善に向けて鋭意努力せよと。それを端的に伝えているだけだとわかったんです。