「入れ替え保育」にする理由

動物園では母親が育児放棄した場合に飼育スタッフが親代わりにミルクを与えて育てることを、「人工保育」と言います。アドベンチャーワールドでも、これまでにチーター、チンパンジーやシロオリックスなどの希少動物の人工保育を行っています。

『知らなかった! パンダ――アドベンチャーワールドが29年で20頭を育てたから知っているひみつ』(著:アドベンチャーワールド「パンダチーム」/新潮社)

パンダにはそのように、完全に親から離して人工保育するのではなく「入れ替え保育」を取っているのはなぜなのでしょうか?

1990年以前、飼育下で生まれたパンダの赤ちゃんの生存率は33%以下。生存率が低い理由として、双子を出産しても母親は1頭しか育てないことが挙げられていました。中国ではパンダの飼育が始まった1960年代より約30年間、赤ちゃんの育成のために人工保育に挑戦していましたが、上手くいきませんでした。その原因には、「初乳」を十分に飲めていないことが考えられました。

出産直後の母乳は「初乳」と呼ばれ、細菌やウイルスから体を守る免疫グロブリンが含まれています。

全ての哺乳類の初乳には免疫グロブリンが含まれていますが、特にパンダは未熟で生まれてきますので、他の動物に比較してその種類や量が多く、さらに脳や神経系の発育を促す成分も豊富に含まれています。

そのため初乳を確実に飲むことが、パンダの育成を大きく左右します。一般的に動物の初乳は黄色ですが、パンダのは薄い緑色をしています。これは免疫グロブリンが他の動物に比べて多いことを表しています。