いつか別れが来る

――いいからじっとしてろ。

夜半原稿を書いている間はずっと一緒にいる。疲れ果てて眠りはじめると、その頰を指で撫でながら、いつか二度と目覚めない時が来るのだと思う。

家人はおそらくアイスとの別れに動揺し、しばらくは悲嘆に暮れよう。ラルクの飼い主夫婦も同様だろう。私とて三匹のどの犬との別れも心身をゆさぶられよう。

いかなる別れになるのか、今は想像はつかないが、それを受けとめるのも生きものと暮らすことなのだろう。

自分が人間であったことを悔むかもしれない。それでもこうして今、一人と一匹で深夜いることが何より大切なのだろう。

別れが前提で過ごすのが、私たちの“生”なのかもしれない。

出逢えば別れは必ずやって来る。それでも出逢ったことが生きてきた証しであるならば、別れることも生きた証しなのだろう。

※本稿は、『君のいた時間 大人の流儀Special』(講談社)の一部を再編集したものです。

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