「ユダヤ人であると口外すること」とは、「危険なこと」

コゼットの人生がミステリアスなのは、彼女の出自と関係がありそうだ。

コゼット・アルクール ©️Studio Harcourt Paris

コゼット・アルクールの本名は「ジェルメーヌ・シュルツフェルト」。ユダヤ系ドイツ人で、フランスで暮らしていた両親のもと、1900年に生まれた。ジェルメーヌが育っていったのは、世界が大転換を迎える時期。1905年にはロシアで第一革命が起こり、1917年のロマノフ朝の崩壊を予感した貴族たちが、国外へ流出し始めた。

1914年から1918年は第一次世界大戦。1933年にドイツではヒトラーが首相になり、第二次世界大戦の1939年から1945年まで悪夢のようなホロコーストがありました。ユダヤ系の人々が激しい迫害を受けた時期に、ジェルメーヌは生まれ、多感な青春期を過ごした。「ユダヤ人であると口外すること」とは、「危険なこと」だという意識をもって育っただろう。

ひとくちに「ユダヤ人」と言うが、古く聖書にあるようにユダヤの土地を追われ、世界中に離散したユダヤ人は混血も進んだので、「人種的」にくくるのは難しいとされる。土地を持てなかったのと、ユダヤ教が金利をとることを認めていたため、金融や商業で成功する人が多く、嫉妬の対象になりやすかったのも事実のようだ。

ヨーロッパではローマ時代から、何か事件が起こると「ユダヤ人を悪者に仕立てた」そうで、中世の十字軍時代に差別意識はより強くなり、ナチス・ドイツの時代には、宣伝相ゲッベルスが、シェイクスピアの「ベニスの商人」を好んで上演。「金貸しのユダヤ人・シャイロック」をことさらな悪者に仕立てて、差別をあおったという。