母が働いていた介護の現場を実際に見て
そもそも、僕がなぜ「介護」や「老い」に関心を持ったのかと言えば、母が介護の仕事をしていたことが影響しているのかもしれません。母はケアマネジャーの資格も取って、僕が保育園に通っている頃から母自身が定年を迎えるまで、ずっと特別養護老人ホームで働いていたんです。夜勤もあるし勤務時間が不規則なので、子ども心に「大変な仕事なんだろうな」とうっすら感じていました。
家に帰ってきたときの母は疲れていそうだったので、僕のほうから「今日、仕事でどんなことがあったの?」と、たずねることもしなかった。なんとなく、目を背けていたと言いますか。でも、その一方で、母は介護の仕事にやりがいを感じていたようなので、いったいどんな思いで働いていたのだろうと、そのあたりも、今回の漫画を描くことで知りたいと思ったんです。
実際に、今回の漫画を描く前に、岐阜にある長谷川先生のクリニックを始め、系列のデイサービスやグループホームに見学に行かせていただきました。先生が診察する様子を、僕は『巨人の星』の星飛雄馬のお姉さんみたいな感じで物陰からのぞかせてもらっていたんですけど(笑)、先生の著書の内容と同様に、実際の診察でもユーモアのあるやりとりが繰り広げられていたり、デイサービスの利用者さんたちは手遊びや脳トレを楽しんでいた。少人数のグループホームではとても穏やかな時間が流れていて、同じレベルの認知症の方たちが集まって暮らすと、心が穏やかになることも知りました。
そんな介護の現場を自分の目で見たことで、長年介護の仕事を続けてきた母を尊敬する気持ちがあらためて強くなりました。介護の仕事って、体を使うことが多いからか、母はすっかり膝を悪くしてしまった。でも、「大変だった」とは一言も言いません。「あの頃は、なんでみんなご飯をこぼしちゃうんだろうって思っていたけれど、最近は私もこぼしちゃうんだよね」なんて笑っているだけで。