母の言葉に背中を押されて
実は、今回の漫画を描く前に、僕が長谷川先生の著書のイラストを描かせていただくことを決めたのも、母が背中を押してくれたおかげです。先生の原稿を読ませていただいたとき、すぐにお引き受けしたいと思ったのですが、僕は認知症や介護について何の知識も持ち合わせていなかった。そんな自分がイラストを描いていいのかと不安に感じて、母に先生の原稿を送って読んでもらったんですよ。これ、僕が勝手にやったことなので、今さらながら出版社の方と先生に謝ります。事後承諾で、すいません。
そうしたら、原稿を読んだ母が「やったほうがいいよ」ってすすめてくれたんです。「この本は真面目な話だけじゃなく、認知症に対してユーモラスな目線で書かれているのがいいね」って。僕も長谷川先生のユーモア感覚がとても好きなんですけど、実際に介護の現場で働いていた母から「こんな笑えるような話じゃない」とダメ出しされたら、実はイラストを描くのをお断りしようと思っていました。でも、そんな僕の背中を母が押してくれたことで、長谷川先生とのご縁がつながったというわけです。
今回の漫画も実家に送ったところ、母は「よい本になりましたね。優しく読めて、ゆっくり心にしみてきます」という感想をショートメッセージで送ってくれました。対照的に、父はすっごく長く電話で語りましたね。「自分も最近は物忘れをするし、この本で言うMCI(軽度認知障害)みたいだな」という話から始まって、電話で1時間くらい延々と感想を語ってくれました(笑)。父は絵の仕事をしているので、「すごくいい絵だね」と褒めてもくれましたね。
そんな父もすでに80代。5歳年下の母も70代後半になりました。自分で言うのもなんですが、姉も含め、この漫画を家族全員で読み、「老い」や「認知症」に対する共通の知識を持てたことはよかったんじゃないかと思います。母は元々、年を取ったら施設に入れてほしいと話していて。介護の大変さを知っているからこそ、子どもたちが辛い思いをしなくていいんだよ、という気遣いが伝わってきました。本音かどうかわかりませんが、「私の骨は田舎に撒いて」なんて、母は冗談っぽく言っていましたね。終活に関する両親の希望もなんとなくわかったような気がします。