「これからの歌舞伎界は師匠と弟子、という感じよりも、チームという感覚が強くなっていくのでは」(松也さん)「どんなに隔てのない師弟関係になっても、それを納得させるだけの舞台をつとめられれば、絶対ついてきてくれると思います」(右近さん)

右近 日本人の特徴としてアンビバレントな、両面性というか、「言わぬが花」という美学がある一方で、言霊を大切にするという二つの文化がありますね。勘三郎さん(十八代目中村勘三郎。12年死去)は感謝の気持ちを口に出しておっしゃっていた。

言わない美学では誰が一番格好いいかと言ったら、僕は菊五郎のおじさま(七代目尾上菊五郎)だと思う。一番言わない人なんだけど、それゆえ何か一言おっしゃったときの威力がすごい。だから言わない美学も格好いいと思います。でも僕の場合は言わないと伝えられない。気持ちをいつ、どう伝えるかは、人間力の問題なのでしょう。

松也 まあ、時代とともにそういうこともだんだん変わってくると思いますし、それを感じながら生きてきた若者たちが年齢を重ねて社会の上の世代になってくれば、必然的にその考え方が浸透していくだろうからね。今、右近君が言ったような裏腹な部分が素敵だったりするからこそ難しいところですよね。

右近 そうですね。

 

一人ぼっち同士で同じ輪の中にいる

 歌舞伎では父親の存在が大きく物を言いますが、松也さんは20歳で父上(六代目尾上松助。05年死去)を亡くされて。

松也 僕はそれ以前にもともと名家の出身ではないですから、父がいてくれて何とか踏ん張ることができていたのですが、父が亡くなってからは一気に押し寄せて、どんどん自分の居場所がなくなっていってしまった気がしました。ですが、父親がいるいないにかかわらず、やはり自分で何とかしなくては先がないんですよ。

右近 僕は最初から歌舞伎役者としての親がいないのは得だな、と考えた時期があります。自分で習得したものが一番強いと思うようにしていました。うちは清元の家なので、清元の世界では父の延寿太夫があれこれ言ってくれて、これがまたありがたいんです。でも親はいずれいなくなってしまうもの。どっちの良さも大変さも感じているからこそ、早く自分にしか出せない色を見つけたいな、と思っています。