関 これから生きていくうえで、目標とするような人は身近にいますか?
松也 僕は、家柄に関してコンプレックスというのがあって、楽屋にご自分の先祖の写真を飾っていらっしゃるのを見ると、すごく羨ましくもあり、嫉妬もありました。ですのでそのころ、自分の部屋の壁の上のほうに、尊敬していた当代の菊五郎のお兄さんと十二代目(市川)團十郎さん(13年死去)の写真を飾ったりして。
右近 えーっ、そうなの。何だ、その精神状況。(笑)
松也 いや、そうだったよ、一時期(笑)。僕はずっと菊五郎劇団で修業させていただいており、菊五郎のお兄さんがいつも中心となって芝居を作っていくお姿を勉強させていただきました。
その後、勘三郎のお兄さんとも何度かご一緒させていただく折があって、美術や照明のスタッフの方々にも、何々ちゃんこうだよね、って気軽に話しかけることで、その現場がいいほうにつながっていくという、そういう感覚のアンテナの張り方が、勘三郎のお兄さんもやはりすごいと思った。ものすごく勉強になりましたね。
ですから自分が中心になって何かをやらせていただけるときには、常にそれを思い浮かべながら参考にしています。菊五郎のお兄さんの大将としての作り方と、勘三郎のお兄さんのチームのようにして作っていく方法と、両方、盗み盗みやらせていただけるのは、恵まれた環境で勉強させていただけたおかげです。
右近 僕は芝居を作っていくのに大事なのは空気だと思う。空気って、時代もジャンルも問わないし、目に見えるものじゃないから難しいけど、それがいいとたいていのことがうまくいく。うまくいったときの空気って、歌舞伎でも他のジャンルでも同じなんですよね。だから僕はいい空気作りの達人をめざしたい。
関 そのために、背中を追いかけたい先輩って……。
右近 それはもう、松也さんです。
松也 うわ。ほんとに。(笑)