発声にはまり、マニア誕生

僕は発声マニアと言われていますが、本当に発声の研究が大好きなんです。
きっかけは、音大を目指し始めたとき。音大生の先輩に発声をみてもらったことがあって、先輩の真似をして発声して友達にほめてもらえたので、合唱部のの先生に「僕の発声よくなりました!」と報告したら「佐藤くん、全然いい声じゃないよ。男の人はもっと響くいい声があるんだよ」と言われたんです。

「もっといい声?」「響く声?」と僕の研究心に火がつきました。毎日毎日「響く場所ってどこ」「響くって何?」と繰り返し声を出して探りながらいろいろなことをやっていたら、ある日、自分の顔の中に「声が響くポジション」がぽんと見つかったんです!自分の声が今までの3倍ぐらい大きく聞こえた瞬間です。

今度はそれを後輩たちに教え始めました。するとまた勉強になる。今ならもっと簡単に見つかる方法を教えられるのですが、そのころは必死に探るしかなくて、いろいろな方法で伝えていて、みんなにあてはまるとも限らなかった。逆に教わることもたくさんあって、もう朝から晩まで発声のことばかり考えていました。これが楽しくてしょうがない! 声が変わっていって、それまで出なかった音が出るようになったり、響きが全然変わってくるんですから!

声って、エスカレーターのように徐々に変わるんじゃなくて、何かに気付いた瞬間にポーンと急に変わるんですよ。だからある段階にいくとまた新たな課題が見つかるんです。本来持っている声質をいかにもっと輝かしいものにするかという技術を探っていく。舌の位置とか体の支え方とか、息の使い方とかいろいろあるのですが、それをひとつずつ探りあてていく。ホントに楽しいですね。自分の体を使ってゲームをしているようなものです。37年間、その繰り返しです!(笑)

声って、エスカレーターのように徐々に変わるんじゃなくて、何かに気付いた瞬間にポーンと急に変わるんですと語る佐藤さん(写真撮影:本社・奥西義和)

なにごとにも向き合い研究するのが好きという佐藤さん。自分の発声理論をきちんと書き残すなど、大学に入ってからも研究を続けており、発声を極めていくとオペラに進むのが順当だと考えていた大学3年生のとき、親友から、当時すでにエリザベートのルドルフ役でミュージカル俳優としてデビューしていた井上芳雄さんのソロコンサートに誘われる。

「井上芳雄さん? 誰それ?」というぐらい何も知らない状態でコンサートに行ったんです。芳雄さんもまだ大学を卒業したばかりぐらいのころだったけれど、笹本玲奈ちゃんがゲストで出ていて、こんな若い人たちが大活躍している世界があるのかと衝撃を受けました。そこで初めて「ミュージカル」という世界に目が向いたのです。ちょうどオペラをやっている先輩からオペラの世界もなかなか大変だと聞いたばかりだったので、よけい井上芳雄さんに刺激されて、「自分の進む道はこれだ!」と思いました。

でも、大学ではやはりオペラのほうが主流で、ピアノの先生に「ミュージカルをやってみたい」と話したら「失望した」とまで言われてしまった。だからずっとその思いは胸に秘めたまま大学生活を送りました。

卒業間近になり、声楽の先生からは「大学院に行きなさい」と言われたけれど自分ではミュージカルがあきらめられない。悩んだ挙句に、大学院進学の道を選ばずミュージカルを目指すことを決心しました。