妥協して良いことなんかない
続いて行ったHもまた、担当者からの説明だけによる販売でした。販売部長のM氏も女性でした(不動産業界は女性活躍が進んでいるんでしょうか。私が出会った優秀な営業担当はみなさん女性ですね)。M氏から説明を聞く限り、駅徒歩すぐの立地と、この2日間で見たどこよりも広い43平米という広さ、そして南東向きバルコニーの前は大通りで眺望・日当たりとも良好、という点は魅力的でした。7階ならば、南側の隣のビルも少し離れているので日照も得られそうです。5140万円ならば、無理すれば金額的にも大丈夫かも知れない……と、大幅に予算オーバーにも関わらず、うっかり勘違いしてしまいます。
ただし、Hの最大にして解消できない問題は、ここが「希望エリアじゃない」、ということです。もう一つは、修繕積立金の金額の少なさ。将来的に金額を上げていかなければいけませんが、上げ幅が大きすぎると、管理組合内部で反対が起きたりしてまとまらず、結果的に修繕積立金が不足する事態になりかねません。なので、最初から値上がり率があまり高くならないよう、比較的高めに設定している分譲会社もあります。ところがHでは長期修繕計画はあるものの、修繕積立金はごく低い設定でした。
エリアについては、妥協して良いことなんかない――この感じは、思い出すことがありました。30年近く前、初めてマンションを買った、若かりし頃の苦い経験です。当時、予算ありきで物件を探して、希望じゃなかったエリアに物件を買った結果、とんだ事態が待ち受けていたことは、この連載の11回目で書きました。馴染みのないエリアで住宅を決めると、そういうことになりかねません。住む場所は、特に購入するならば、土地勘のある場所で探した方が絶対的にいいのです。前もって、購入検討エリアの賃貸に「お試し移住」して確かめてもいいくらいです。
後日、資金相談に行った折に断りました。すると、別の担当営業マン(こんどは男性)が出てきて、しつこくねちっこく慰留されました。自分ではデキる営業と思っていそうな、でも、女性をバカにしたような目つきなのが気になります。修繕積立金が少なすぎ、将来の上げ幅が大きすぎるのが危険だという話をしたら、「どうせみんなずっとなんて住まないんです。10年か20年で出て行っちゃうんですから、その先のことなんて心配しなくていいですよ」。一生そのマンションに住み続けるつもりで、良い状態を維持したいと思って買う人も多いでしょうに。なんという言い草でしょう。
さらにエリアがどうしても納得できないと話すと、「新築で、**アドレス(住所)で、この価格は二度と出ない」だの、「(元沢の)希望するエリアには、(元沢が)買える価格帯の物件なんて出ない」だの。でも、個人的には、Hの建設地周辺を散策してみても、いま賃貸で住んでいる場所より「良い」土地柄だとは思えませんでした(何をもって良いとするかは人それぞれだとは思いますが)。そう話すと、「それなら一生賃貸で良いんじゃないですか。賃貸のほうがいいと思いますよ、プロとしてアドバイスします」とまで言われました。
そうまでして買わせたいのでしょうか。まだローンの事前審査もしていないうちから、(審査で落ちるかも知れないのに、苦笑)この営業マンに腹が立ち、こんな人からは買いたくない、と強く思ってしまいました。ので、Hも結局、購入するのはやめました。今となっては、やめて良かった、ああすっきり。変な営業マンさんありがとう、という気持ちです。