新築の物件
「すごい良い景色!」南側に向いた窓の外には、都心のビル街と、その向こうには広い空が広がっていました。マンションが高台にあるため、5階とはいえ、気分は10階です。あいにくの曇天でしたが、これが晴れていたら、どれだけお日様がさんさんと差し込んだことでしょう。こんな都会の一等地なのに! 「すごーい、ステキですねえ~」。思わず溜め息が出ました。――そう、ついに悪魔の誘惑、新築の物件を見に来てしまいました。
予算を上げたら選択肢が広がった、ということで、無謀にも、一戸建てやコーポラティブハウスに挑戦したことはすでに書きました。こうなると、もう、毒を食らわば皿まで、ものはついで、です。高嶺の花である新築物件も、見に行くだけ行ってみることにしました。なにしろ、立地、間取り、設備――いまのマンションの「最新流行」の全てが分かるのですから。
4月のある土曜日のことです。この日は「新築未入居」の2つの部屋を内見予約しました。山手線内のターミナル駅A駅徒歩9分のBマンションと、C駅徒歩4分のDマンションです。ふつうマンションは完成前に販売しますから、実物の建物は見られません。ですが、「新築未入居」ならば、すでに建物は出来上がっているので内見が出来るのが強みです。最近は完成前の完売が当たり前なので、建物が完成するまで売れずに空室のままの部屋は少ないです。それでも、ローンや買い換えの不成立などでキャンセル住戸が出ることは、稀にあります。モデルルームやCGの説明ではなく、実際に現物を見てみたい!ということで、まずは「新築未入居」を内見することにしました。
実は、ちょっと下心(!)もありました。かつて、バブルが弾けた後には、そうした新築未入居物件は、こっそりお買い得になったものでした。業者が早く売り切りたいので、現地販売事務所(という名の建物内モデルルーム)に行くと、「ここだけの話」として値引きが提示されたのです。「家具付き販売」(実質的には家具代分の値引き)や、中には販売価格から2~1割も下げた「値引き販売」も珍しくありませんでした。それでもデベロッパーにとっては、借入金の利息負担を考えればお得(当時の金利は7~5%もありましたから)、とっととモデルルームを閉じて次の物件に行きたい、という考えだったのでしょう。
そういう過去を、実際に見聞きして知っているため、私は甘く見ていました。もしかしたら、今でも、「新築未入居」物件は、デベロッパーが売りたいがために値引きをしてくれるんじゃないか?と。ですが、今回、その甘さを思い知ることになりました。値引きどころか……。