写真提供◎photoAC
かつて女性の辛さは「女三界に家無し」と表現されました。しかし現代、「本当に住む家が買えない、借りられない」という危機的状況に直面するケースも増えています。そして男女雇用機会均等法で社会に出た女性たちが、会社勤めをしていればそろそろ一斉に定年を迎える時期に…。雇均法世代である筆者は57歳、夫なし、子なし。フリーの記者・編集者。個人事業主ではあるが、見方によっては「無職」。ずっと賃貸派だった彼女が、60歳を目前に「家を買おう」と思い立ち、右往左往するリアルタイムを、心情とともに綴ります。

前回「夢のコーポラティブハウス~みんなで建てる注文マンション、自由度は高いが、手間と時間とお金がかかる、ローンの壁にあえなく撃沈」はこちら

新築の物件

「すごい良い景色!」南側に向いた窓の外には、都心のビル街と、その向こうには広い空が広がっていました。マンションが高台にあるため、5階とはいえ、気分は10階です。あいにくの曇天でしたが、これが晴れていたら、どれだけお日様がさんさんと差し込んだことでしょう。こんな都会の一等地なのに! 「すごーい、ステキですねえ~」。思わず溜め息が出ました。――そう、ついに悪魔の誘惑、新築の物件を見に来てしまいました。

予算を上げたら選択肢が広がった、ということで、無謀にも、一戸建てやコーポラティブハウスに挑戦したことはすでに書きました。こうなると、もう、毒を食らわば皿まで、ものはついで、です。高嶺の花である新築物件も、見に行くだけ行ってみることにしました。なにしろ、立地、間取り、設備――いまのマンションの「最新流行」の全てが分かるのですから。

フローリングの色味や形には流行がある。こうした焦げ茶色などの濃い色味が、高級感と落ち着きから、かつては好まれた。板のパーツの幅も細めが多かった。賃貸の場合、フローリングの傷やへこみの補修やラッカー塗り直しがされているかどうかを見ると、大家がきちんと手入れや管理にお金を掛けている物件かどうかが分かる。(写真提供◎筆者)

4月のある土曜日のことです。この日は「新築未入居」の2つの部屋を内見予約しました。山手線内のターミナル駅A駅徒歩9分のBマンションと、C駅徒歩4分のDマンションです。ふつうマンションは完成前に販売しますから、実物の建物は見られません。ですが、「新築未入居」ならば、すでに建物は出来上がっているので内見が出来るのが強みです。最近は完成前の完売が当たり前なので、建物が完成するまで売れずに空室のままの部屋は少ないです。それでも、ローンや買い換えの不成立などでキャンセル住戸が出ることは、稀にあります。モデルルームやCGの説明ではなく、実際に現物を見てみたい!ということで、まずは「新築未入居」を内見することにしました。

実は、ちょっと下心(!)もありました。かつて、バブルが弾けた後には、そうした新築未入居物件は、こっそりお買い得になったものでした。業者が早く売り切りたいので、現地販売事務所(という名の建物内モデルルーム)に行くと、「ここだけの話」として値引きが提示されたのです。「家具付き販売」(実質的には家具代分の値引き)や、中には販売価格から2~1割も下げた「値引き販売」も珍しくありませんでした。それでもデベロッパーにとっては、借入金の利息負担を考えればお得(当時の金利は7~5%もありましたから)、とっととモデルルームを閉じて次の物件に行きたい、という考えだったのでしょう。

そういう過去を、実際に見聞きして知っているため、私は甘く見ていました。もしかしたら、今でも、「新築未入居」物件は、デベロッパーが売りたいがために値引きをしてくれるんじゃないか?と。ですが、今回、その甘さを思い知ることになりました。値引きどころか……。