作家の西加奈子さん(左)と産婦人科医の高尾美穂さん(右)(撮影:玉置順子(t.cube))
家族3人で移り住んだカナダ・バンクーバーで、2021年夏、西加奈子さんは乳がんを告げられた。医療制度や慣習が異なる地で8ヵ月の治療の日々――。産婦人科医として女性の生涯に寄り添う高尾美穂さんと、がんという病、医療のあり方、そして閉経後をどう生きるかまで、広く深く語り合う(構成=菊池亜希子 撮影=玉置順子(t.cube))

特別な病気と思われがちだけれど

西 右胸に小さなしこりを見つけ、検査を受けたのは21年5月。告知はとてもカジュアルでした。整体院で指圧を受けている最中にクリニックの医師から携帯に電話が入り、検査結果をサラッと告げられた。そして「がんセンターの連絡を待つように」と。なんだか実感が湧かなくて。

その後、がんセンターで「トリプルネガティブ(*)乳がん。大きさは2.9cm。すぐに抗がん剤治療を」と言われて、「めっちゃ、がんやん!」と初めて怖くなりました。ステージIIBということも、後でわかりました。

高尾 日本では、がんはまだ特別な病気と思われがちです。ご自身や身近な人が経験していない限り、どこか自分ごとに思えない。でもね、乳がんは現在、日本人女性の9人に1人が経験します。

そして、治療を終えたら社会に戻っていく。高血圧や骨折など、ほかの病気やケガと同じように、その後に人生が続いていくことが多い病気のひとつです。

西 カナダでは、まさにそんな感じでした。すぐに抗がん剤投与が始まりましたが、医師も看護師も皆、とにかく明るい。「がんなんや!」「じゃあ、治そう!」と笑顔で。その雰囲気に救われました。

*トリプルネガティブ:乳がんのタイプのひとつ。ホルモン受容体であるエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、さらにHER2タンパクの3つが存在しない型。全乳がんの約15~20%