閉経した女性の役割は?

高尾 世の中はまだ、女性性というものを、乳房や子宮に見る面がありますね。それを失ったり、生理が終わったら女性じゃない、というような見方。冗談じゃないよね。「私は私です」と思えばいいんです。

子どもを育てたおっぱいも、その仕事を終えてから病気をしたのなら、なくなるのも自然。子宮や卵巣も、赤ちゃんを産み終えた後に病気になったなら取っても支障はない。閉経は自然の理(ことわり)。女性特有の部位にだけ女性性を見る人がいますが、そんな発想を残念に思います。

西 乳房を取ったことを「勇気があるね」と何人かに言われましたし、夫がどう思っているかを気にする方もいました。いや、この体は夫のものではなく私のものです、とお答えしましたが、女性たちがどれほど世間にそう思わされているのかと感じました。

高尾 「女性らしく」とか「医者らしく」とか、正直、そんなのいらない。その人らしく生きるのがいちばんです。私たち、いずれ生理が終わるでしょ。生殖能力のない生き物が自然界に生きている意味ってなんだろうと、よく考えるんです。

生殖能力を持たない生き物といえば働きバチ。働きバチは、女王バチがよい状態で繁殖できる環境作りをしているんですね。私たち人間も、閉経して生殖機能が終了した後は、次世代がよい環境で子を産んで育てていける社会を準備する役割を担っていくのだと思います。

結局、私たちの生き方を、次の世代が見ている。大事なのは、私たちが自分に満足して、今日もいい一日だったと思えているか。次の世代に「私の人生、最高!」という背中を見せられているかってことじゃないかな。

西 若い女性たちには、歳を重ねるのは楽しいよって伝えたいですね。もちろん、ままならないこともあるけど、それ以上に楽しいことがたくさんあるよって。

高尾 そうね。加えて、これからの日本は、ひとりで生きるケースが増えていくと思います。私の夫は5年前からギラン・バレー症候群を患っていて、ほぼ動けない状態です。さまざまな事情も重なって、ここ数年は別に暮らしています。

離れていると心も離れていく気がして寂しく思いながら、今後の私自身について最近、いろいろ考えるのです。歳を重ねればできなくなることが増えていくし、コロナ禍で家にいて、考える時間が増えたことも大きかった。誰しも分岐点になる出来事があって、何かに気づいていくのでしょうね。

西 本当にそうですね。私にとって、乳がんはそのひとつでした。がんになってよかったなんて軽々しく言えないけど、でも、がんになって立ち止まったから見えた景色は、確かにあったと思います。

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作者:西加奈子
出版社:河出書房新社
発売日:2023/4/18
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