今となっては「正解」だった

由井 そこから、父や書評家の豊崎由美さんにお願いして、会員に対して本を推薦してもらい、その本についてゲストを招いて語る、といったコンテンツが生まれました。付随して会報を作ろうとしたんですが、手間がかかるし、動画で撮って出ししたほうが効率もよさそうだからとYoutubeで限定公開を始めて。そんな感じで集まったメンバーと出来ることを考え始めるようになってから、次第にマネタイズできるようになりました。

書評家・豊崎由美さんの棚(写真:本社写真部)

清水 なるほど。

由井 ネットを通じてのやりとりが増えていくなか、やっぱり直接交流したいね、という意見も出始めて。もともと僕はコワーキングスペースを作りたいと思っていたし、徐々に現実の店舗がイメージされるようになっていきました。一方、大学教授である父は父で、先生が共同で持つ書庫を作りたい、という夢を持っていて。ある先生が人生をかけて体系的に集めてきた本も、退職をきっかけとしてバラバラになることが多い。出来上がった体系そのものが素晴らしいのに、それが壊れてしまうことを父は悩ましく思っていたようです。

清水 長くテクノロジーを扱ってきた立場としても、それはよくわかります。

由井 だったら、ご退官された先生の本を一か所に集めて、先生自身はもちろん、現役の先生や研究者、学生が自由に出入りできるような空間をつくれればと。そんなことを夢想しているうち、本屋さんが集まるこのすずらん通りに空き店舗が出たと耳にして、おおよそ、今の形でオープンすることになりました。ただし、始めた当初は僕一人が店にいて、「いらっしゃい」なんて声をかけつつ、メンバーを中心にサロンっぽく使えれば、なんて思ったんですが・・・いざ蓋を開けたら想定を超えて大勢のお客さんが(笑)

清水 神保町の目抜き通りですもんね。

由井 もともと一人でお店を回せるようなシステムを用意したうえで開店したんですが、今となっては、それが本当に正解だった、と痛感しています。