「濃密につき合ってすぐに壊れるよりも、細く長く淡々と続く関係を選びたいのです」(撮影:大河内禎)
90歳になった作家の五木寛之さんは、「捨てない生き方」を提唱しています。大量生産・大量消費の時代に抗いながら、モノと語り合う大切さとは。
(構成=平林理恵 撮影=大河内禎)

前編「写真、手紙、CD、カセットテープ…愛すべき〈ガラクタ〉に囲まれて。〈捨てない生き方〉も案外悪くない」はこちら

 

人間関係も細く長く淡々と

捨てないのはモノばかりではない。人間関係も仕事もKeep on、つまり長く続けることにこそ、値打ちがあると思う。

「人とらば、浅く契れ」という古い言葉を大切にしています。僕は終戦後、38度線を徒歩で越えて日本に引き揚げる経験をしました。その苛酷さから、人間というものは生まれたときも死ぬときも、結局は一人、孤独なものだという意識が強い。

だから友情は水のように淡々と、が理想。好きな人とはあえてあまり深くつき合わないようにします。この人とは気が合うと感じたら、距離を置いてこちらから接近しようとはしない。年に1回会うか会わないかという友だちとなら、いつまでも続くもの。濃密につき合ってすぐに壊れるよりも、細く長く淡々と続く関係を選びたいのです。

ひとつの仕事を続けることもまた、僕にとって大事なこと。小説を書き始める前から携わっていたラジオの仕事は今も続けていて、『ラジオ深夜便』で喋っています。また、『日刊ゲンダイ』では創刊以来半世紀ちかく、1日も欠かさずコラムを書き続けて1万1600回になりました。これも僕にとっての「捨てない生き方」なのです。