揺れるロシアの社会

「侵攻を支持するロシア人の軍事ブロガーが爆殺された。判然としない部分が多いが、ロシア国内は分断され、いろいろな考え方を持つ人が多くなっていることは推察できる」=廣瀬氏

「昔のロシアは、まっとうな国防政策が必要だとか、そういった観点から政権批判をする軍事評論家が多かった。2014年のクリミア併合以降は、愛国的で、民族差別的な発言を前面に出す活動家が増えている」=小泉氏

伊藤ロシア国内では、こうした爆発事件や不審な死を遂げる事件が起きています。謎が謎を呼ぶというくらい混沌としています。ウクライナでも、ロシアでも、多数の民間人が亡くなるのは見ていて耐えられません。

ロシアでのウクライナ侵攻支持者を巡る事件©️日本テレビ

ロシアは権威主義の国で、プーチン氏の体制は揺るぎのないように見えます。ただ、廣瀬氏の指摘する通り、ロシアにも世論は厳然としてあり、皆がプーチン氏支持ではありません。プーチン氏は前回18年の大統領選で、投票率、得票率ともに7割という目標を掲げましたが、7割の投票率は達成できませんでした。日本の衆院選でも、投票率は1980年代まで7割前後を維持していました。7割は決して高い数字ではありません。あれだけ投票を強要するような選挙を行っても、「選挙には行かないよ」というロシア国民もいたことに、私はかすかな希望を持っています。こうしたロシア社会の動きをよく見ていきたいと思います。

吉田同感です。ウクライナ軍はロシア軍をどこまで押し返すことができるのか。軍事攻勢の行方が、しばらくはウクライナ情勢を見る際の最大の関心事になるでしょう。同時に、戦争に終わりが見えない中で、どのようなことが停戦の糸口になっていくのか。ロシアで来年行われる大統領選は一つのきっかけになるかもしれません。

ロシアは経済制裁を受けています。海外に人材が流出するなど、国力は低下していくでしょう。そして、ロシアは多くの戦死者を出しています。民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らを含めて、死者数は7万人に達したという推計も出ています。ロシア国内には、漠然とした不安感や不満がたまっているのではないでしょうか。米国でも来年、大統領選が行われます。ウクライナ支援を続けることに疲れて、米国内で意見が割れるようなことになれば、プーチン氏を利することになります。我々の姿勢も問われています。

解説者のプロフィール

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。

 

吉田清久/よしだ・きよひさ
読売新聞編集委員

1961年生まれ。石川県出身。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。1987年読売新聞社入社。東北総局、政治部次長、 医療部長などを経て現職。

 

提供:読売新聞