東京の新築マンション高騰の余波

M氏のところを辞した後、私は街中を歩いて回りました。まだ夕方前で、中心街も公園も繁華街もたっぷり散策できました。ホテルでチェックインした後、ご飯を食べに街に出て、もう一度、物件の場所を見に行きました。ですが、……さみしい、というのが率直な感想でした。いかに県庁所在地の中心部近くとはいえ、そこはやはり地方都市です。夜、出歩いている人はほとんどおらず、車通りは少なく、物件の近くですれ違ったのは、わずかに1人か2人だけでした。治安は良いのでしょうが、寂れている。でも、それは車社会の地方の宿命です。夜は、飲み屋街だけが明るくて、住宅やマンションは静かになるものでしょう。

ただし、M氏の物件「だけ」しか見ずに、決めることは出来ません。せめて中古物件のグレードと相場感を確認して、比較しないと。というわけで、泥縄ですが、Y市内の中古物件をネットで調べました。その結果、数百万円台からあり、相場は東京の半分どころか3分の1、4分の1くらいだと分かりました。例えば、「750万円、57平米1LDK、1989年築」、「1380万円、73平米1LDKフルリフォーム済み、1991年築」「2380万円、62平米1LDK、2004年築」「2480万円、68平米1LDKリフォーム済み、1988年築」などなど。いずれもバス便ですが、業者に確認した時点で売約済みだったものも。

翌日、まずはY市内で建築中の新築マンションの現場、4ヵ所のうち3ヵ所を見に行きました。50平米台から100平米台まで、3000万円台~7000万円台と幅はありますが、中心価格帯は70~80平米台の4000万~5000万円です。なるほど。これだけ供給過剰気味ならば、M氏が早く売り抜きたいと焦るのも無理はありません。いずれも、広さを考えると東京よりは安いですが、お買い得とまでは言えない金額です。

その後、地元の不動産仲介業者と落ち合って、市の中心部にある高級マンションの内見をしました。「2680万円、最上階、67平米2LDK、2004年築」です。繁華街も官庁街も近いものの、公園脇で、静かで落ち着いています。西向きだったので、ちょうど西日がさんさんと差し込んでいました。

「広い! 明るい!」感動しましたが、築20年で、地方でこの金額はどうなのでしょう。案内してくれた営業マン曰く、「もともとグレードの良い高級マンションとして分譲されたので、今でもあまり価格は下がりませんね」とのことでした。逆に言えば、地方都市ではやはり、普通の中古物件ならば、それなりに価格は下がるということです。中古まで値上がりしている東京のほうが例外的なのでしょう。では、いまY市中心部で建築中の大手の新築物件の価格帯はどう見ているでしょう。「高いですよね~」と水を向けてみたら、業者さんは「そうですよね」と同意します。

「ここ最近、急に新築の値段が上がりだしました。地元の人にはなかなか厳しい金額になってますよね」。ならば、東京のように外国人投資家が買っているんですか?「いいえ。Y市にはまだ外国人投資家は来ていないと思いますよ」。新築の価格設定が高くなったのは、東京の新築マンション高騰の余波だ、ということでしょう。東京や大阪などでマンションが高くなりすぎて、新築を買うのを諦めた大家業の人々が、地方の家賃収入を見込んで投資しているのかもしれません。