お試し移住
――こう考えると、やはりY市の新築マンションはバブル気味な気がします。M氏のマンションも含め、これまでのY市の相場からは乖離しすぎではないか、と危惧します。それは、バブルがはじけたら、どかんと価格が下がりかねない危険性があるということです。M氏のマンションが、いかに立地が素晴らしくても、今の金額は冒険でしょう。私がY市になじめるか、という問題もありますし。賃貸で「お試し移住」をして相性を確認してから買うならまだしも、いきなり購入して引っ越し、というのは、かなりハードルが高いですよね。それに、東京への往復交通費もかかりますし。親に何かあったら、という心配もありますし……。
というわけで、東京に戻って1週間。あの、一瞬で燃え上がった、一目惚れのような熱病はどこへやら、すっかり熱が冷めてしまいました。まるでスキー場の恋のようです。雪上ではあんなにかっこよく見えた男性が、街場で会ったら「こんな人だったっけ?」って、がっかりする、というあれです。Y市で夢見たものが、現実に戻ってくると、どれも実現不可能に思えます。ああ、あの素晴らしい眺望は捨てがたかったんだけどなあ……。
でも。そんなに気に入った眺望だったとしても、Y市に限らず、似たような景色の田舎はいくらでもあるのでは? いきなりY市に「全移住」「引っ越し」という大ばくちをしなくても(M氏のマンションは売り切れてしまうだろうけれど)、「お試し」的に、月に何日かだけ地方に滞在すれば良いだけでは? どの地方なら暮らせるか、自分との相性がいいかを確認するだけなら、ホテルや民宿でもいいのでは?
ちなみに、後日談を一つ。内見させてもらって、けっこう良いなと思っていたY市の高級中古マンションですが、2週間もしないうちに、業者から「(買い手が)決まりました」との連絡がありました。地方都市といえども、良い物件は足が速いですね。決まるものは決まってしまうもの。やはり、本当に移住を考えるなら、どっしり腰を下ろして物件を探すべきでしょう。まずはどの地方がいいかを決めないと。候補地を決めたら、とりあえず賃貸でいいから住んでみて、住みながら物件を探す――それが現実的でしょう。