「たとえば以前なら90分かけていた仕事が、身体介護30分、生活援助30分の合計1時間になるような場合。入浴介助して洗濯機を回しながら掃除と買い物。時間がないから買い物はスーパーではなく最寄りのコンビニ。洗濯物干しも広げて伸ばさず適当に。
家事をする方にはわかると思いますが、隅々まで掃除する暇はないので、掃除機を丸くかけて終わりです。利用者から手抜きだと怒られたこともありますが、この時間内ではやりようがありません」
しかも利用者が認知症の人の場合、あまりテキパキ慌ただしく周りで動くと混乱し、「ヘルパーが盗みを働いた」と言い出されることもあるという。
「朝起こして、入れ歯を洗って、洗顔させて、着替え、食事、デイサービスへの送り出しを20分でやることもあります。研修では『トイレに行きますか』『オムツ交換してもいいですか』と聞いて、ご本人の同意をちゃんと取ってから行動するようにと教えられるのです。
でも20分では答えを待っている時間がないから、『交換していいですか?』と聞きながらオムツを下げる。嫌だという暇を相手に与えないので、これは非人道的で、虐待に加担しているのと同じだと私は思っています」
時間短縮を迫られて、介護現場が慌ただしくなった。その結果、ヘルパーのケガや事故も増加。伊藤さんも2014年と15年、移動中とサービス中に足首を骨折して労災認定を受けている。
「大雨でカッパを着て移動する際に、サービス時間が15分しかなく、慌てて利用者宅の玄関先で転びました。自転車も含めてヘルパーの転倒事故はすごく多い。私は70歳で本当ならリタイアしたい年齢です。でも人手不足で、会社もどんどん仕事を入れてくるので」
ヘルパーの高齢化は著しく、70代、80代の現役ヘルパーはざらだ。介護される側より年上で、杖をついて仕事に行く人もいる。
「だから年々人が減り、コロナ禍でまたたくさんの方が辞めました。私の所属する事業所ではかつて120人ぐらいヘルパーがいたのが、今は50人ほど。無理もありません。自分自身も高齢で、低賃金なのに、コロナに罹患した方の家に行かなければいけないんですから」