国から見れば「無駄を省く」施策も、働く側からは追い立てるように仕事を詰め込まれることになる(写真提供:Photo AC)
訪問介護ヘルパーの現場で、深刻な人手不足と高齢化が進んでいる。「低賃金のうえ、移動や待機時間は無給」などの労働条件は不当で介護保険制度に不備があるとして、2019年11月に3人の女性ヘルパーが起こした国家賠償訴訟が継続中。社会生活の一端を担う職業の待遇に早急な改善が求められる

<前編よりつづく

国に訴訟を起こしたわけ

低賃金や雇用形態の問題だけではない。「効率優先」で時間を細切れにする近年の傾向もヘルパーに重い負担をかけている。

「我慢の限界が来ていたんです」と、原告の1人になった理由を明かすのは伊藤さんだ。介護保険は3年ごとに見直し、改定が行われる。だが現場にとっては「改正」ではなく「改悪」となる部分も多い。

「昔、ヘルパーは子育て中のお母さんや親の介護中の人たちに人気の職種で、資格取得が流行った時期もあったんです。でも介護保険の改定ごとに働きにくくなって、辞める人が増加。

とくに2012年の介護報酬改定の際、国が『介護の効率性の向上』を言い出し、それまで1時間だった生活援助の単位が45分になりました。時間を削ったぶん、1軒でも多く回ればもっと利用者も増やせて事業所の収益も上がるはずだと」と、伊藤さん。

現在は身体介護で20分から30分なら「身体1」、30分以上60分未満で「身体2」、生活援助の45分未満は「生活援助2」、45分以上は「生活援助3」、身体と生活を組み合わせた場合は20分以上45分未満が「生活援助1」……といった具合に、時間と介護報酬が細かく区分されている。

だが1軒の時間を短くして訪問先を増やせば増やすだけ、移動時間は増える。国から見れば「無駄を省く」施策も、働く側からは追い立てるように仕事を詰め込まれることになる。