「不思議なもので、父のことって家族より周囲の方のほうが覚えているんですよ」

実はなんですけど……僕は父が10年ほど前に心筋梗塞になった時から、いつ別れが来てもいいように、父に会う時は大切に過ごそうと決めてました。そのせいか悔いはないんです。

でも弟は、僕より年が7つ下ということもあってか、父ともっと話したかったと感じているようです。母も「一緒にしたいことがまだあったのに」と言っています。「パートナーがいなくなって、生きていくうえでのモチベーションが変わってしまう」と戸惑っているみたいで。兄と弟、親子、夫婦で受け止め方が違うんだなぁと改めて気づかされましたね。

実家の玄関先で父と最後に交わした会話は、夫婦に関することでした。仕事でインドへ行くことになった僕を見送りながら母が、「これ持って行って食べて!まだあるから取ってくる」と言って奥へ引っ込んだんです。

それを見ていた弟が「世話焼き母さんで兄ちゃん大変だね」と言ったのを受けて、僕が「33年も息子やってるから」と答えたら、傍らにいた父が「俺なんか35年も夫やってんだから慣れたもんよ」って。何気ない会話でしたが、夫婦の絆みたいなのを感じて、嬉しかったです。