(写真提供:Photo AC)
高齢者医療に詳しく、多くの患者を診てきた精神科医の和田秀樹先生。超高齢社会において急増中の「認知症」と「老人性うつ」は同じ悩の病であり、初期症状がよく似ているそうでーー(構成:村瀬素子 イラスト:かやぬま優)

<前編よりつづく

老人性うつは早期治療で8割回復

一方、うつは、ストレスにより脳の神経細胞が傷つき、神経伝達物質「セロトニン」の分泌量が減ることが主因と考えられます。そもそも、年齢とともにセロトニンは減少していくもの。

そのうえ、たとえば配偶者やペットの死、自身の病気などのつらい経験や、引っ越しなどの環境の変化、あるいは経済的な不安などにより大きなストレスがかかると、それが引き金となって「老人性うつ」を発症するケースが多いのです。

うつは、こじらせると最悪の場合は自殺に至るおそれもあり、とても怖い病。ですが高齢者の場合、本人も周りも気づきにくいのが問題です。若い人なら、精神的な落ち込みや、食欲減退、不眠などが続けばうつを疑うでしょう。

しかし、老人性うつの場合、若い人に比べて心理的な症状の訴えは少なく、むしろ頭痛、腰痛、動悸など身体の不調を訴えるケースが目立つことが特徴。それらの症状に加えて、不眠や食欲減退は「年のせい」と見過ごされがちです。

老人性うつの症状は、認知症とも似ていて、「風呂に入らない」「物忘れが多い」といった変化は、いずれにも見られます。実際、認知症を疑って受診し、うつの診断を受ける人も。