売買と賃貸の相場

どの駅でも、駅前に降りると、まず不動産屋を探します。どれほど地方でも田舎でも、日本では、たいていの駅前に不動産屋があり、表のガラスに「売買」「賃貸」といった物件情報を貼っているからです。その広告チラシ(業界用語で「マイソク」と呼びます)を見ると、一戸建てやマンションの、売買と賃貸の相場が分かります。東京近県を「家探し」の目で見ると、売り物になっている不動産の多さに気付きます。空き家問題が言われるだけあり、特に一戸建ての安さが目に付きます。実際に地方の小さな市町村では、アラ還女性でも「貯金で買えそう」な金額で、物件が売られていました。

例えば、6月中旬、山梨県X市に行きました。新宿からJRで1時間強、自然豊かな山間地にあるX駅に着きます。駅前には、スーパーやドラッグストア、いくつかの飲食店に並んで、不動産屋が1軒ありました。宿に行くより前に、まずは不動産のマイソクチェックです。例えば、以下のような土地や土地付き建物(中古住宅)が売りに出されていました(さすがにマンションはなく、売り物件はすべて一戸建てでした)。

a)住宅用地 1100万円 328平米 X駅歩18分 接道は公道西側2.7m、南側私道4m、高台、「日当たり良好」
b)住宅用地 450万円 115平米 X駅歩20分、一種住居専用地域、建ぺい率60%-容積率200%、北東側公道4m、6m接道
c)住宅用地 300万円 131平米 X駅歩28分、70%-200%、高台、西側公道3m、セットバック要(6平米) 
d)住宅用地 700万円 197平米、Y駅歩11分、70%-200%、更地、西側私道4m
e)中古住宅 430万円 120平米、Z駅歩3分、1993年築2階建て85平米、北東公道4m、ただし土砂災害特別警戒区域内、日当たり良好、駐車場あり

数百万円で土地が買えます。ここにローコスト住宅を建てるなら、土地建物を合わせて1200~2000万円ほどで戸建てが手に入りそうです。「ローコスト住宅」とは、坪単価20~40万円、1000万円から建てられると謳うものです。そうしたメーカーや工務店を選べば、例えばお一人様用の20坪(66平米)の家は、坪40万円かけても800万円で建てられる計算です(マンションのリフォーム代は、いま500~1500万とされますから、とんとんか安いくらいですね)。

物件cなどは魅力的です。300万の土地ですから、上記の通りに66平米の家を建てても1100万円! これで新宿までJRで1時間強の場所に家がゲットできます。駅から徒歩28分というのは、車がないと厳しい距離なので、70歳くらいまでは頑張って運転する必要があります。

運転が心配ならば、中古物件eはいかがでしょう。築30年の古家ですが、駅から徒歩3分です。ただし、注意事項に「土砂災害警戒区域」と表記があるので崖地が近くなのでしょうか。豪雨の時には山崩れなどの災害の危険性があるということでしょう。地図で見ると川もすぐそばにあります。自宅がこういうエリアにある場合は、災害の警報が出たら、早めに避難所に避難するしかありません。足腰がたたなくなる老後を過ごす終の棲家にするのは避けたほうがよさそうです。やはり安いには安いなりの意味があるのです。

物件cも、改めてグーグルマップで確認したところ、川がすぐ近く(敷地の北側から北西を通って南西側)を流れていました。氾濫危険地域かどうか、市のハザードマップを確認する必要があります。さらに、高速道路がすぐ脇(橋梁で上空にあたる)を通ってるので、深夜でも通行音がけっこう響くかもしれません。いやいや、待て待て。グーグルマップをさらに拡大して周囲をよくよく見たら、川と当該地との間にある空き地は、どうやら墓地のようです(残念ながら公道が前を通ってないので、グーグルストリートビューでは確認出来ません)。――こうして詳細に見ていくと、安いなりの訳がありそうです。一見したところ、東京からJRで1時間強という地の利の割にお買い得だと思ったのですが。