氷山の一角
なぜ? なぜこんなに安いのでしょう? fは、建物の46平米が狭すぎるから、でしょうか。逆にお一人様にはちょうどいいサイズです。gは築43年と古いせいでしょうか。でも、土地代にもならないんじゃないかしら。実は、このfとgはすぐ近く。ということは、このエリアで最近、大規模な洪水とか、裏山の地すべりとかがあったんでしょうか?(裏は城址です)。でも洪水ハザードマップを見ても、危険エリアを外れていました。不思議です。単に、Z駅の人気がなくて、人口流出のおり、需給バランスが崩れて地価が安くなっているのでしょうか。
いずれにせよ、空き家が社会問題になっている折、状態のひどくない家でも、空き家や売り家として市場に出ているということが分かります。これらは氷山の一角です。もうけが出ないからと不動産屋が扱ってくれず、市場に出回らない中古住宅はもっと大量にあるはずです。日本中、いまや空き家だらけなのですから。(実際、今ほど不動産が活況を呈していなかった6年前、横浜市内でも、修繕にお金と時間がかかる築古の中古住宅は、「買手がつかない」からと格安で売りに出ていました)。つまり、私(や東京在住者)が知らないだけで、東京からさほど遠くない暮らしやすい地方都市で、「お買い得」な物件のある「穴場」の地域はありそうです。それらの物件は、アラ還シングル・フリーランサー女性の貯金でも、買えそうです。
候補地だらけ、ということは、やはり、どこを選ぶか、どうやって選ぶかが問題になります。まだ体が動くうちに地方に移住し、そこで貯金の目減りを抑えつつ暮らし、来たるべき老人ホームや高齢者施設の必要資金は備えておく――失敗しても、安く売り逃げするような経済的な余裕はありません。ではどうやって「失敗しない移住先」を選べば良いでしょう。元自治体職員で、地方で賃貸業をしているS氏に聞きました。あまたある候補地の中から、どうやって移住先を決めたら良いと思いますか?
「地方移住といっても、地方の田舎か、地方の都市か、という違いがあります。地元コミュニティーに溶け込めるか、といった問題が出るのは前者、地方の田舎の場合です。田舎の濃密なコミュニティーが苦手とか面倒な人には、地方の都市の街中に住むことをお勧めします。県庁所在地などの街中なら、東京で住むのと変わりません。どの地方でも同じです。ご近所付き合いもありません」。ただし、食品や家賃などの物価も、そこまで劇的に安くはありません(住宅を購入するならば東京より断然安いですが)。生活レベルは、支出レベルも含めて、東京とあまり変わらないそうです。
S氏の指摘の通り、「地域コミュニティー」が、地方移住がうまくいくかどうかの試金石になることは有名な話です。かつて、定年後に田舎に移り住んだ人が、地元の自治会や防災組織など、近所づきあいの濃密さについていけず、数年後に都会に舞い戻ったという失敗談をよく聞きました。失敗の原因が本人にある場合と地域側にある場合があり、後者は地域によると、S氏は指摘します。地域によって、よそ者を受け入れる土壌があるかどうかが、まったく違うからです。