経営者としていつも的確な判断を下してきたミチコさん。スタッフには指示できても、想定外の行動をする夫と息子には戸惑うばかりだ。

それでもたまに息子は、くたくたに疲れて家に帰った母親に、「スープ作っといたよ」とやさしい言葉をかけてくれることもあるのだとか。そんなときは、息子と向き合ってゆっくり話をするチャンス。

「何もすることがないのなら、ブティックの仕事を手伝ってよと言ってみましたが、まったく興味を示さない。住む世界が違いすぎて、私の経験がまるで通じないことに無力感を覚えます」

息子がひきこもるようになって8年。半分諦めながら、半分希望を失わず、息子が自分の足で立ち上がるのを待つしかないのかなと、苦笑いするミチコさんだ。

 

自傷行為再発の不安から腫れ物に触るように……

幼いころから才気煥発で気も強かった娘(24歳)は、大学進学を機に一人暮らしを始めた。年をとってから生まれた娘に大甘の父親は住まい探しから家電選びまで大奮闘し、娘を送り出したのだが……。

「大学1年の終わりだったでしょうか、娘は部屋を引き払い実家に帰ってきました。勉強が追いつかなかったのか、失恋したのか、友人関係がうまくいかなかったのか、大学も辞めてしまい、部屋にこもって外に出られなくなったんです」

ヤスコさん(64歳)夫婦にとっては青天の霹靂。成人式のために伸ばしていた髪を、ツンツンになるまで自分で切ってしまったのもこのころだった。娘の自傷行為に夫はショックを受け、娘の部屋の前でオロオロするばかりだった。

「それまでも、声優になりたいから大学とダブルスクールで声優の学校に通いたいと言えば学費を出してやり、彼氏ができたと言えば、食事をご馳走しにはせ参じ、何でも娘の言うとおりにしてきた夫の落ち込みようは尋常ではありませんでした。パパっ子だっただけにね」

ヤスコさん自身は、娘のエキセントリックなところが苦手だった。母娘の間には微妙な空気も流れていたようだ。

「何でも夢中になってはすぐ飽きる娘の性格にはちょっと辟易してましたね。夫には、すぐ気が変わるんだからいちいち付き合わないでと言っていましたが、つい言うことを聞いてしまう」