大学を辞め、声優になる夢もついえ、失恋もして、心身ともに傷ついたであろう娘が次に夢中になったのが、スピリチュアルの世界。部屋にひきこもってから3年が経っていた。少しでも外に目が向くのはいいことだと、ヤスコさんも、娘がネットで仕入れた精神世界の話を聞いてやったのだという。
「友人との付き合いもなくなり、話し相手は親だけという状態ですから仕方なくでしたけど。それでも、自分に合うメンター(指導者)を見つけ、教室に通うようになり、やっと部屋から出られるようになりました」
アロマキャンドルを手作りしたり、占い用のカードを買いそろえたり、教室に通ったり、金銭的負担はそれなりにあったものの、部屋にこもっているよりはましと思い、送り出したのだという。
「宇宙の波動がどうの、生まれ変わりがどうのという話に夢中になっている娘を見ていると不安も募りましたが、傷ついた心を癒やす時間と割り切って好きにさせていました。夫も、よどんだ雰囲気の娘を見るのはつらかったのでしょう、明るくなったことにほっとしているようでした」
娘のスピリチュアル熱は2年間続いている。今ではネットの悩み相談や勉強会の講師の助手なども務めるまでになったようだ。とはいえ、少しでも娘の話に異論を唱えたり、ネガティブな意見を言ったりすると、顔色が変わりパニックを起こしそうになる。腫れ物に触るように、「そうね」とか「なるほどね」と相槌を打つようにしているというヤスコさん。
「ここでつまずくとまた自傷行為に走るのではないかと、びくびくしてしまうのです」
娘を気づかう日々に疲れが隠せないヤスコさんだ。
バッグの中にロープが……寮生活を経て社会復帰
今まさにひきこもりやニートの子どもを抱えている親に何ができるのだろうか。ミチコさんのように、ただ子どもたちが自分の力で立ち上がるのを見守るしかないのか。
カヨコさん(68歳)の脳裏には8年前までの苦悩の日々が今も蘇る。夫が急死したのは次男が高校3年生のときだった。長男もまだ大学生だったので、母親に金銭的負担をかけたくないという思いからか、次男は住み込みの新聞奨学生に応募して進学することにしたという。