最初は本人宛てに手紙が届くだけだった。読んでいるのかいないのかもわからず、もちろん返事を書くわけはない。イベントや講演会への誘いもあっただろうが、心を動かされているような素振りは見えなかったという。

「しばらくして、そのNPOの方が家を訪ねてこられたんです。私は仕事で出かけていましたから、次男が応対しました。スタッフの方が、寮の様子などを説明して、では今日はこれでと帰ろうとしたら、次男が『自分も寮に入りたい。今から連れて行ってほしい』と頼んだそうです」

「今からお連れしますね」という連絡を受け、カヨコさんは驚いた。慌てて帰宅したものの、次男はもういなかった。

「嬉しいような、寂しいような、とても複雑な思いでした。居間にはお客様にお茶を出した跡があり、ちゃんと接待できたんだと妙に安心した、そんな記憶があります」

寮生活を送った後、NPOのスタッフとしてお手伝いをした3年間を経て、30歳のとき、次男は自立した。おまけに、NPOのスタッフだった女性と結婚し、今では2人の子どもにも恵まれ、良きパパになっている。

「私も次男も、暗いトンネルの中にいた時間より、普通の家庭生活を送れる時間のほうが長くなりました。まさに今、つらい日々を送っている親子もいらっしゃるでしょう。何もできないもどかしさに親のほうが心が折れそうになりますよね。でも、明けない夜はないことを信じて待ってあげてほしいと思います」

閉じこもる子、自立しない子に、親はどう向き合うべきなのか。子どもはいくつまで子どもなのか。そして子育てに終わりはあるのか。百人百様の親子のあり方に、正解はない。

※タイトル変更しました(10月7日13:00)