ひきこもりの状態になった子どもに、初めは同情的だったり、自分の子育ての何がいけなかったのかと自省的だった親たちも、5年、10年と期間が長引くにつれ、苛立ちや焦りが強くなる。先々への不安や自身の老後を見つめて、子どもとの関係を暗中模索するなかで、当の親たちはどのような思いを抱えているのだろうか。(取材・文=島内晴美)

息子の自立の芽を踏みにじった夫

一人息子(28歳)が大学にも進まず、専門学校も退学して自宅にひきこもって8年。ブティックを経営しているミチコさん(56歳・仮名=以下同)の気が休まるときはない。思えば、息子が中学受験で第一志望の学校に合格したときが子育ての絶頂期だったと振り返る。

「中高の6年間は保護者会にも出かけたし、ママ友もできて、普通の親らしい暮らしをしていました。確かに学校は休みがちで進級が危ぶまれたことも何度かありましたが、ぎりぎりで卒業までこぎつけました」

付属校だったため内部進学の道もあったけれど、本人は大学に進学したくないという。そのころから息子の外出が激減して、昼夜逆転の生活が始まった。

「大学に行かないならすぐ働きなさい! と言ったらコンピュータの専門学校を探してきたんです。1年間は何とか通ったけど、あるときからまったく興味を失ったようで、学校に行かなくなり自然退学。正真正銘のニートになってしまいました」

店の経営は順調だが、ミチコさんは何しろ忙しかった。朝早く出かけることも、出張で家を空けることも多く、息子が毎日何をしているかに目が行き届かなかったという。

「息子は自分が進むべき道を模索中なだけで、いずれやりたいことを見つけてくれるはずと信じて、同級生が大学を卒業する22歳までは何とか面倒をみようと決めました。それが、23歳になっても25歳になっても動こうとしなかった。顔を合わせると『どうするつもり?』『何がしたいの?』しか言うことがなくなって、息子はそれが嫌で私と顔を合わせることを避けるようになりました」

こんなときは父親の出番と、夫に息子と話すよう促したものの、仕事にかこつけて逃げまくり……。それでも息子が意を決して「ゲームデザイナーになりたいと思うんだけど、親父どう思う?」と話しかけたとき、IT企業に勤める夫は、「そんなのだめだよ。無理、無理」とにべもなく答えたのだ。

「愕然としましたね。息子がやっとの思いで見つけたやりたいことを、頭ごなしに否定するなんて。私は夫に幻滅し、息子はますますひきこもって、事態は悪化するばかり。自分たちの親としての限界を悟りました。そのときから、息子のこともさることながら、夫とはやっていけないと思うようになって……」

そんなこともあってミチコさんは、2年後に夫が定年を迎えた時点で別れることを心に決めたという。

「家庭崩壊ですね。息子は相変わらず、夜中はオンラインゲームに夢中、昼間は寝ていて、私がいないときに冷蔵庫をあさって食事するという日々を続けていて、1週間くらい顔を合わせないこともあります」