「自分を溺愛してくれた親を介護するのに『対価』ですって! 恐ろしくなるほどの守銭奴ですよ。私だって近くに住んでいれば、介護したかった。そんな時です。私の子にくれたお祝い金にまで文句をつけてきたのは」
姉の子への出費は、姉への生前贈与としてカウントするというのだ。そして「今後いっさい実家のことに口出しするな!」と命令され、親に電話しても取り次いでくれなくなった。
「さすがに母の危篤時には連絡してきましたが、実家に入って驚きました。母の部屋はぐちゃぐちゃで、布団もひどく汚れていて。母と同居したといっても、まったく世話をせず放置していたようでした。父親も脳出血で、意思疎通ができない状態で入院中。結局、母の通夜の日も実家に泊まらせてはくれませんでした。たった1人の姉が地方から東京に駆けつけているのに」
サナエさんの脳裏に、半世紀以上前の光景がよみがえる。小学校に上がったばかりの頃、弟が生まれた。母が弟を抱いて退院してきたとき、世界が一変したのだ。
「それまでは普通に愛してもらっていたと思います。ところが、弟が生まれた瞬間、両親、祖父母、曽祖父母、6人の目がいっせいに弟に向き、私の存在は忘れ去られました」