あの手のぬくもりが忘れられない

当時の職場だった病院に入院していたのですが、新生児室から響く赤ちゃんたちの泣き声が、「ママ寂しいよ」と私を呼んでいる声にしか聞こえない。上の子には祖父母とパパがいるから大丈夫。でも死んだ次男のそばに行ってあげられるのは私だけだ。本気でそう思ったんです。後で冷静になれば、子どもがそんなことを望むわけがないとわかるのですが……。

私はすっかり心を決めて計画まで立てていました。警備員さんの巡回が終わったら、あそこから飛び降りようと。ところがちょうど見舞いに来た夫から、上の子の様子を聞いたのです。「寂しいとは言わないけど、寝顔を見ると涙がつーっと流れている。早く帰ってきてほしいんだと思うよ」って。それで踏みとどまりましたが、やはり「死にたい」という思いは消えません。仕事を優先し、息子の命を奪ってしまった。そんな私がなぜ生き残っているのだろうと。

その後、お寺に亡くなった息子を預けに行った時のことです。住職はたぶん私の姿を見て、尋常な心理状態ではないと察したのでしょうね。こんなことをおっしゃいました。

「お母さんはお母さんの人生をまっとうした時、またこの子に会えるからね。母親の涙ほど、子どもの魂をこの世に引き留めてしまうものはない。お母さんが悲しみ苦しむことを、亡くなったお子さんは決して望んでいませんよ」と。この言葉には救われました。

もうひとつ私を支えてくれたのが、あの先輩助産師さんの存在です。入院中、同僚が検温などに来るんですが、とても気を使ってくれているのがわかる。と同時に、「早くこの場を離れたい」という気持ちも伝わってくるんですね。

どうせ誰にもわかってもらえないと心を閉ざしていた時に、あの先輩が来て。ベッドの横にしゃがんで私の手を握り、「ごめんなあ。何かマシな言葉をかけようと思ったのに、何も言えなくって」と泣いてくださった。今でもあの手のぬくもりは忘れられません。

おかげで、やはり助産師として頑張っていこうと決心することができました。私が今こうしてグリーフケアにかかわっているのも、その方が仕事をする姿から、「お産を取るだけが助産師の仕事ではない」と教えてもらったことが大きいと思います。