仕事に集中しすぎるあまり、心身のバランスを崩して

「私が自分にASD(自閉症スペクトラム障害)の傾向があると気づいたきっかけは、激務から体調を崩して起き上がれなくなってしまい、心療内科を訪れたことでした」

そう語るのは、友田麗奈さん(45歳・IT企業事務、仮名=以下同)。発達障害の過剰集中の傾向が強く表れていた時期で、肉体の限界に気づくのが遅かった。体の痛みや、寝ても疲れがとれないなどの自覚症状はあったが、仕事が楽しすぎて、気づいたときには心身のバランスがとれなくなっていたという。

「過労と診断され、1ヵ月ほど会社を休むように言われました。復職後は医師のアドバイスに従い、ひとつのことに集中しすぎないよう、生活のバランスを整えるよう心がけていたのですがダメで。体の使い方がわからなくてやりすぎてしまい、具合が悪くなるという繰り返しでした」

休んでは復職するということを5年ほど続けたとき、医師から「普通の人よりも痛みに鈍いのではないか。ほかに原因があるかもしれない」と言われ、病院を移ることになる。

新しい病院で、成人の発達障害診断で使われることの多い「WAIS-III」という検査を受けたところ、「得意・不得意の差がかなり大きい」「身体感覚がズレている」など、生活していくうえで不便を感じるレベルの傾向が見られたという。

「結果、アスペルガー症候群の傾向があると言われました。二次障害による心身の疲弊が強く出ていたので、2年間の休職を余儀なくされて」

復職前にはリハビリにも通い、少しずつ心身のバランスを取り戻していったという友田さんだが、その間に家は完全にゴミ屋敷と化した。

「以前は、決しておしゃれな部屋ではないけれど、こまめに掃除も洗濯もして清潔に保ち、自炊もしていたのですが……」

けれど今は、このままでもいいと言い切る。主治医から、「もう少しいろいろなことで手を抜くことを覚えたほうがいい」とアドバイスされたこともあるが、少し落ち着いた現状がまた変化するのが怖いという。

思い返せば、友田さんにはASDの傾向を示す事柄が過剰集中以外にもあった。「音や振動、接触に敏感」「人と接する際の距離感がわからない」「ルールに強くこだわる」──。

「実は、マナーの悪い男性と電車の中で怒鳴り合いのけんかをしたこともあるんです。普通の人なら『こういう人もいるよね』と、さらっと流せるところが流せなくて。それがまたストレスになっていました」