だけど人間は誰しも完璧じゃないし、失敗することもある。今はその人の不愉快な面と対峙しているかもしれないけど、一緒に笑い合える面もある。リハビリを通してそう考えられるようになりました、と笑う。
ただ復職後、会社に診察結果を申告すると、「できないことの言い訳にしないでね」と辛辣な言葉を浴びせてくる人もいたという。
「全員に理解してもらうのはなかなか難しいですね。何もかも前向きにとらえる気はないけれど、自分に今できることを無理せず頑張っていくしかないのかなと思っています」
思ったことを100%言葉にして地雷を踏み続けた
現在、育児休業中の高村恵子さん(39歳・メーカー勤務)が他人とのズレを感じるようになったのは、社会人になってからのこと。ストレートにものを言う家族のもと、他人にあまり干渉しないおおらかな地域で育ったので、学生時代は違和感を覚えることはなかったという。
しかし数年前、転職した企業で働きはじめたことで状況は一変した。
「会社独自のルールがあったり、仕事の進め方がそれまでの2社とまったく違ったんです。とくに頭を悩ませたのが、上司の言うことが、実際にしてほしいこととズレていることでした。言葉どおりに受け取るのでは不十分で、その裏にある意味や、そこから派生することを、上司は『察して当然』『そのくらいわかるだろう』と思っていた。けれど私は、それをうまく汲み取ることができず苦しみました」
反対に、思ったことは100%言葉にして相手に伝えてきた高村さんは、上司の地雷を踏み続け、余計な対立を引き起こしてきたという。
こうしたことが重なって悩んでいたある日、雑誌にあった発達障害の記事に目が留まった。
「そこに書かれていた、“衝動性がある”“人間関係がうまくいかない”など、いくつかの項目が当てはまったので、もしやと思いました。インターネットで調べていたら、グレーゾーンの人たちが集まるイベントを発見し、行ってみることにしたのです」
その後、イベントで紹介された心理士に心理検査をしてもらい、グレーゾーンだろうと言われた。
「正直なところ、グレーというのは欲しい答えではありませんでした。けれど、現状の苦しさを改善するには、自分のことをまずは知らないといけない。そういう意味では少しホッとしました」
とはいうものの、クロと診断されれば使える国の制度があるが、グレーは「障害」とは言えないため福祉の抜け穴になっている。そのため、傾向が認められても、これからどうしていけばいいのか、という新たな課題が生まれてしまうのが実情だ。