そこへいくと祖父の小さんは天才肌。一切ノートなどに書かず、何百という演目を記憶していました。祖父から聞いたのですが、前座時代、午前中に師匠から稽古をつけてもらった演目をその夜の高座で披露し、しかも出演者の中で一番うまかったと名人に評価していただいたとか。とにかく記憶力が尋常ではないんです。
もしかしたら発達障害の人に時々現れる、特異な記憶力を持つサヴァン症候群だったかもしれないと推測しています。そういう点が祖父に似たら、よかったんですけどねぇ。
僕は、ADHDの特性のひとつで、喋り出したら止まらない多弁の傾向があります。とにかく、ずーっと喋り続けているんです。今日も止めていただかなかったら、たぶん3時間でも話し続けますよ。この特性も、落語家にとってはけっこうプラスに働いていると思います。
視聴者からのメールで識字障害だと自覚した
自分の障害のことを知ったのは、『ジョブチューン』というテレビ番組に出演したことがきっかけでした。番組中で中学校の時の通知表をお見せし、「こんなに勉強ができなかったけれど、今は落語家として活躍させてもらっています」といった内容でしたが、それを見たある視聴者の方が事務所にメールをくださって。うちの息子は花緑さんと同じ障害を持っています、と書かれていたのです。
でもその時点では、僕は自分に障害があるとは思っていないので、そういうレッテルを貼られて、正直なところ不快感がありました。「障害」という言葉に、過敏に反応してしまったのかもしれません。
ですから、「大変ですね。でも申し訳ありませんが、自分のは障害ではありません。テレビでは出しませんでしたが、音楽と美術の成績はすごくよかったんです。ですから、違うと思います」とやんわりと否定するお返事をしました。するとまた返信が来て、「うちの子も、美術や体育はずばぬけていい成績です。ですからやっぱり、識字障害ではないでしょうか」と。
そこで、はたと立ち止まる気持ちになったんです。待てよ。僕がずっと苦しんでいたのは、そのせいじゃないか。それが2014年です。それで自分でもいろいろ調べ始め、これは間違いなく識字障害だと理解できたのです。
受け入れたとたん、ものすごく大きな変化が起きました。わずか数年前まで、自分はダメだ、できないんだと思っていたのが、そうではない。識字障害のせいだったのだとわかった時の安堵感。精神的にものすごくラクになりましたし、恥ずかしさがなくなりました。
それで2017年に本で公表したところ、すぐにニュースになり、発達障害をテーマにしたテレビ番組にも出させていただいて。その番組内で、大阪医科大学のLDセンターというところに行き、さまざまな検査を受けました。その結果、先生からは「きれいなディスレクシアですね」とお墨付きをいただいた。ほかの知能指数は正常範囲で、識字にかかわる部分だけが欠落しているそうです。