三谷 どんなところでお困りになられたんですか。

草笛 どんなところって、あなたあれは誰だって困るでしょう。家族の誰もが息を引き取ったと思ったら、「ちと、早すぎた」って言って意識を取り戻すなんて、全然リアルじゃないもの(笑)。リハーサルでも、みんな笑いをこらえるのに必死。1週間くらい悩んで、夜中に家でいろいろ試しました。

三谷 確かにひとつ間違えると別れのシーンなのにコントみたいになっちゃう。匙加減が難しいところですが、そこは草笛さん、見事に演じられていました。

草笛 「思わず泣いてしまいました」って、後でメールくださいましたね。

三谷 だから『鎌倉殿の13人』でも、草笛さんの最終シーンは印象的なものにしようと決めたんです。大泉洋さん演じる源頼朝と、草笛さん演じる頼朝の乳母・が対峙する。厳しい目で頼朝を見つめているのだけど、実は目を開けたまま寝ていた、という。

草笛 頼朝が去った後に呼びかけられて、「あ、眠っておりました」って。あんなおかしな台詞ないわよ。演技も大変でした。「カメラさん、もうちょっと早くきて」と思うのに、ゆっくりゆっくり近づいてくる。その間、瞬きができないでしょう。

三谷 僕は大満足だったんですが、撮影後にプロデューサーから連絡があったんです。「三谷さん、困ったことになりました。草笛さんが帰り際に『次のシーンが楽しみです』っておっしゃってました。まだ終わったつもりではないみたいです」って。

草笛 だって、まさかあれが最後だとは思わなかったんだもの。ごめんなさいね。

三谷 で、急遽追加したんですよ。比企の乱の後、1人落ち延びて幼い善哉(のちの公暁)に呪いの言葉を残す比企尼の姿。結果的にこれがとても素晴らしいシーンになりました。