石原燃さん<劇作家・作家>(撮影◎篠田英美)
2023年5月、妊娠9週までを対象とした国内初の経口中絶薬「メフィーゴパック」の流通が始まり、初期中絶の方法として手術以外の選択肢が増えた。しかし当事者にとって決してアクセスしやすいものとは言えず、今後の見直しを求める声は多い。劇作家の石原燃さんに読者アンケートの結果も踏まえた、いまの考えを聞いた。

産んでも、産まなくても、あなたの出した結論なら
~石原燃

2022年、私の戯曲『彼女たちの断片』が上演されました。20歳の大学生が経口中絶薬を海外の医療支援団体から入手し、中絶に臨む。それを、産むことを望まなかった人、産めなかった人、産んだ人……立場の異なる女性たちが、自身の経験を振り返りながら見守る物語です。

中絶というテーマに関心があったのは私にも経験があるからですが、妊娠するからだを持つ者として「自分のからだのことは自分で決めていい」と伝えたい思いがありました。ライフステージや状況次第で、産んでも、産まなくても、あなたの出した結論ならそれでいい。そんなふうに言えるようになったのは最近のことではないでしょうか。

同時に、中絶薬承認までの行方を見て、日本の医療や制度の遅れも感じました。戯曲執筆にあたっては、フランスや台湾など海外の産婦人科医にも取材。書ききれなかったことは、先日発表した小説『いくつかの輪郭とその断片』に描いています。

世界保健機関(WHO)で推奨され、世界82の国や地域で使われる中絶薬がようやく承認されたのは喜ばしい。ただ、手術費用と変わらない10万円程度の費用設定になるなど、問題は山積しています。

そもそも中絶手術が可能な指定医がいても、ホームページ等で人工妊娠中絶に言及しない病院も多い。選択肢の多い都心部であれば学割があるような病院も見つけられるでしょうが、誰にも相談できず焦っているときにこれでは、不安しかない。医師の方針も施術法も費用も不透明。地域格差もある。

産婦人科医に「中絶に必要とされる10~20万円は誰もが払える金額ではないですよね」と尋ねると、「未成年なら親御さんが負担しますから」と返されることがあります。でも、親にこそ知られたくない人は多いんじゃないかな。親からの虐待だってあるんだし。嬰児の遺棄事件のニュースを耳にするたび、周囲に知られる恐怖や、金銭や将来への不安から、医療に繫がる時期が遅れることの深刻さに、やりきれなくなります。