「同性間の精神的な美しい繋がり」を描きたかった
『何年、生きても』(単行本『花は散っても』を文庫化にあたり改題)は、祖母と孫の物語なんですけど。これまた、もどかしいふたりが主人公です。(苦笑)
最初、谷崎潤一郎没後50年・生誕130年メモリアルイヤー(2015~16年)に向けて依頼された作品でしたから、谷崎を念頭にストーリーを練りました。そもそも、谷崎の精緻な着物の描写が好きだったことも、私が着物好きになったきっかけのひとつだと思うんです。
高校時代に初めて谷崎を読んだときには、作品に出てくる銘仙という着物がどういうものか、よくわかりませんでした。私が15歳のときに亡くなった母が残した着物は、いわゆる「昭和の奥様」が着るものだったので、実家に銘仙はなかったんです。大学生になって初めて手に取った銘仙にときめいたのを思い出し、谷崎へのオマージュ作品ならと、銘仙が物語の軸となる「謎解き」モチーフになるものを書いてみよう、と考えました。
そして、銘仙といえばやっぱり女学生だろうと(笑)、祖母である咲子の手記パートでは、女学校のシーンを思いっ切り書かせていただきました! 戦前の女学生の〈百合〉、女性同士の恋愛を書きたかったんです。当時は『乙女の港』(川端康成と中里恒子の合作と言われる少女小説)が人気を集め、作中に描かれた〈エス〉と呼ばれる女学生同士の友情とも恋愛とも違う関係が、実際に流行りました。
ちなみに〈エス〉は、Sisterの頭文字です。『華ざかりの三重奏』でも、少女漫画好きの還暦女性たちを描きましたけど。昭和の頃からずっと、少女漫画が好きな女性たちがいて。そういう方たちは、少女漫画的な〈百合〉要素を好きなんじゃないでしょうか。例えば『エースをねらえ!』(1973~75、78~80年に『週刊マーガレット』で連載された山本鈴美香のテニス漫画。アニメ化、テレビドラマ化もされた)だって、主人公の岡ひろみと先輩であるお蝶夫人の関係は〈エス〉だし〈百合〉の要素満載じゃないですか。
大人からしたら、本当の恋愛を経験する前の予行演習、「おままごと」に見えるかもしれませんが、女の子たちはその瞬間、本気でSisterとの関係に悩んだり、胸をときめかせたりしてたんだろうと思います。
実際、後輩や同級生に〈エス〉的な関係を迫られたら、私としては重たい……。でも、その儚さには憧れがあります。単行本刊行時のインタビューでは「初めて〈百合〉を書きました!」とアピールしました。世間はあまりそこに食いついてくれませんでしたけど(苦笑)。咲子が何十年も抱き続けた大切な人への想いを綴る手記パートで、私の憧れである、同性間の精神的な美しい繋がりは描けたように思います。