(撮影◎本社 奥西義和)
繊細な役から狂気を秘めた役まで、数々の映画やドラマで幅広い役柄を見事に演じ分けている林遣都さん。TBS日曜劇場『VIVANT』では、主人公の父親役を演じて話題に。10月8日から東京・明治座を皮切りに各地で公演が行われる舞台、音楽劇『浅草キッド』では、浅草のフランス座で下積み時代を過ごしていた若き日のビートたけしこと北野武さん役を演ずる。この作品は、名曲「浅草キッド」を始めとする数々のオリジナル楽曲やタップダンスも盛り込んだ音楽劇。林さんにとって新たな挑戦となる1作だ。この舞台に懸ける林さんの思い、そして、俳優として、1人の男性として、この先、目指している生き方について伺った。(構成◎内山靖子 撮影◎本社 奥西義和)

自分なりの武さんを演じたい

今回の舞台『浅草キッド』のお話をいただいたのは2年ほど前のことです。原作の自伝小説を武さんが書かれたのは知っていましたが、どういう内容の舞台になるのか、いざフタを開けたら、僕が武さんの役で。そして音楽劇でした。あまりにもビックリして、この話はいったんちょっと置いておこうと。(笑)

なにせ、“世界の北野”ですから。実在のモデルがいる役はこれまでに何度も演じてきましたが、武さんのように日本中の誰もが知っている方を演じるのは初めてです。やるとなったら、相当覚悟を決めなきゃいけないという思いが自分の中にあったので、稽古に入る直前まで、その緊張感をしまっておいたという感じです。

とはいえ、実際に稽古に入っても、武さんに近づこうという意識はあまりありません。そもそも、近づこうとしても、ちょっとやそっとで近づける人ではないので。

お話をいただいた後に、1度だけ武さんとお会いする機会がありましたが、知らないことがひとつもないんじゃないかというくらい博識で。どんな話題を振られても、それをネタに瞬時にトークが始まるんです。しかも、ネガティブで暗い話題でも、必ず笑いやユーモアをプラスして語られる。人間が持つ「ネガティブ」や「マイナス」の部分を笑いに変えて表現され続けてきたところが、武さんのすごさだと思います。

それだけすごい方にも関わらず、僕自身が共感できる部分もたくさんあるんです。役作りのために武さんに関する書籍をいくつか読んでみたところ、とてもシャイで繊細な方なのかなと感じました。武さんも、若い頃は自分の感覚に悩んだり、人の目が気になったりして、生きることに息苦しさを感じていたことも多かったとか。僕も人づきあいがあまり得意なほうではないですし、ものすごく悩みやすい性格なので、そんな自分の性格が若き日の武さんと重なっているような気がします。

でも、武さんはネガティブな部分があるからこそ人の気持ちがわかったり、マイナスな部分がある人間にしかできない表現があるとおっしゃっていて。その言葉にすごく勇気をいただいたので、そんな武さんの本質的な部分を自分の中に落とし込み、僕なりの人物像をつくっていけたらと思っています。