「心が弱い」で片付けても問題はなくならない

荻上 先ほども言いましたが、日本では薬物依存と聞くと、「心が弱い」「自分が悪い」という判断をされてしまうところがありますからね。

上岡 そうなんです。でも実際はまったく違う。実は、虐待を受けた人の4、5割は何らかの依存症を発症するといわれ、そのデータもあるんです。特に女性の薬物依存者は、何らかの形で暴力の被害者である割合が非常に高い。ダルク女性ハウスに入ってくる女性の85%は、虐待やDVなどを受けています。

荻上 暴力の被害者である女性が、心の痛みを和らげるために薬に向かうケースがほとんどなのですね。

上岡 原理は男性も一緒。今まではアルコール依存も、仕事の接待で連日飲んで依存症になるタイプと、生きづらさをカバーするために飲んで依存症になるタイプがあった。今は前者が減って、ほとんど後者です。何らかの心の痛みがあり、それをアルコールで覆い隠す。それは薬物もギャンブルも同じだと思います。

荻上 依存は「痛み止め」とも言われますからね。薬物が一番わかりやすいけれど、アルコールでも、パチンコでも、あるいは買い物でも、のめり込んでいると脳内に快楽物質がどんどん出る。そういうことで自己承認を調達しているわけです。

上岡 そうですね。

荻上 ところが自己承認の調達があまりうまくない人もいる。多くの人は友達と喋ったり趣味に打ち込んだりして発散している。しかしそれが苦手な人もいるわけです。

上岡 薬物依存になった人は、だいたいみんな薬の悪口を言わないんです。薬に助けてもらったと思っているから。薬があったおかげで死ななくて済んだとか、人と付きあえるようになったとか。

荻上 ある意味で、薬がなければ生き延びられなかった。それだけ過酷な状況下で生きてきたと。

上岡 そうです。残念ながら日本はそうした問題に対する受け皿が少ない。特に15歳から25歳の青年期は、もともと頼る場所がないうえに、知識が入りづらいため、支援につながりにくい実情があります。また、背景にある鬱病などの気分障害のほかに、統合失調症や発達障害、知的障害などいろいろなハンディキャップがからみあっているケースも多い。けれど、そういったところは注目されず、薬物を使用した部分だけフォーカスして、十把一絡げに「すごく悪い人」として扱われてしまう。