芸能人の薬物使用をめぐる報道が、テレビで流されています。2016〜17年にも、同じような薬物使用に関するバッシング報道が過熱したことがありました。そこで、危機感を覚えた評論家の荻上チキさんを中心に、「薬物報道ガイドライン」の提案がなされました。当時、『婦人公論』誌上で、荻上さんと「ダルク女性ハウス」代表の上岡陽江さんが語り合った内容は、現在の状況を考える上で、示唆に富んでいます。(構成=古川美穂 撮影=本社写真部)

薬物依存は回復可能な病気

上岡 私たちが薬物・アルコール依存症を持つ女性をサポートする「ダルク女性ハウス」を作ってから、今年で26年になります。でも、近年の薬物問題報道を見ていても、まだまだ薬物依存に対する世の中の理解は進んでいないと感じています。特にここ数年、著名人の薬物使用についての報道の仕方はひどい。

荻上 2016年、男性歌手が覚せい剤の使用容疑で再逮捕されましたが、あのときの騒動もひどかった。薬物関係では大抵そうですが、報道合戦が過熱して、一種のソーシャルリンチ(社会的なイジメ)のような形で本人を追いつめてしまっている。

上岡 確かに日本では、覚せい剤などの薬物所持や使用は犯罪です。でも薬物依存は回復可能な病気なので、本人は罪を償う必要があるけれど、それ以上に病気からの回復が必要。ところが現実は、罪を償い社会復帰をしても、いつまでも犯罪者として扱われる風潮が強いのです。それが再使用につながってしまう部分もある、と私は思います。

荻上 なるほど。

上岡 著名人の場合は特に、報道陣に追われない静かな環境の中で、早い段階から治療を受けて、家族も一緒に支援されることが回復につながると思うのです。けれどマスコミをはじめ、「回復」ではなく「更生」という言葉を使うことからも、意識を変える難しさを感じています。

荻上 薬物依存症は自分の意思でなんとかなる、という間違った認識が浸透しているからですよね。

上岡 そうです。薬物依存症は、長期的な薬物使用によって神経がダメージを受ける慢性・進行性の病気。そのため、使いたいという強い欲望や強迫観念が生じ、意思をコントロールできなくなっている状態です。

荻上 それに、薬物報道というのは少し特殊。犯罪報道と芸能報道の領域が重なって、倫理規定が守られにくい側面がある。ホテルから顔を出しただけで撮られる、自宅をマスコミに囲まれて洗濯物すら干せないなど、枚挙にいとまがありません。

上岡 深刻な社会問題なのに、芸能ニュースのコーナーで取り上げられますしね。

荻上 新聞では、専門家の意見で記事を締めくくるなど、真摯な対応が主流になってきました。でもテレビなどでは、「薬はこんなに悪いことだ」という通俗的なイメージを喚起させる絵柄がバンバン使われます。

上岡 本当にそうですね。

荻上 そのうえ、薬物のことを知らないコメンテーターが、「彼を信じていたのに」とか「心が弱い」と的外れな発言をし、医療の問題を精神論にすり替えてしまう。素人取材に素人談義が重なって、問題解決には辿りつかない構造になっています。