たたくだけではなく、回復を受け入れる社会に
荻上 僕は、「カテゴリ型(類型)の思考法をやめて、タグ型(要素)の思考法にしよう」と言っているんです。
上岡 それはどういうことですか。
荻上 「薬物依存症」の前に「発達障害」とか「虐待被害者」とか、いろいろなタグが複数あるんだけど、薬物依存というのはすごく目立つタグで、そこだけが見られてしまう。人間はさまざまなタグが付いている生き物で、人生の中でタグは付いたり離れたりするわけです。僕の関わってきたイジメ問題も同じで、自殺や薬物、イジメは、その問題だけに取り組もうとしても無理なんです。背景にある経済格差とか、虐待、健康格差など、そんないろいろなものが結びついた結果、イジメなどの行動が起っているから。
上岡 私自身は18歳から27歳まで、アルコールと処方薬の依存で、27歳から40歳ぐらいまで摂食障害でした。なぜ私が依存症になったかというと、子供の頃にぜんそくで長期入院していたのですが、小児病棟で子供の死をたくさん見て、それを受け入れられなかった。
荻上 そうだったんですか。
上岡 本当のトラウマになるようなことって、なかなかうまく言語化できないものです。私も、自分のことを振り返れるようになったのは40歳を過ぎてからでした。それでも普段は頑張って生きているけど、相当重い負荷がかかっているから、時々思い出してしまう瞬間があるんです。
荻上 生きづらさというのは、人生の中で他の人だったら獲得できたような自尊心や自己肯定感、交友関係が欠落していて、チーズのようにボコボコ穴が開いている状態だと思うんです。それを自己修復するのは難しいので、誰かの手を借りなければいけない。「家庭で愛され、学校で友達を作る」、大人なら「家庭を作り、会社で働く」。そこで自己修復をするのが典型モデルなわけでしょう。
上岡 そうですね。
荻上 でも、もし家庭や職場、学校こそがチーズに穴を開けるような場所だったら? だから僕は、家でも学校や職場でもない第三の場所をもっと増やすことを提言したい。
上岡 ダルクなどの施設や自助グループは、そういう場所としても機能しています。
荻上 オバマ前米大統領が、若い頃に大麻などを使用していたのは有名な話ですが、麻薬大国ともいわれるアメリカには、回復した人を受け入れる土壌がある。けれど日本は、「犯罪」だと叩くだけで、回復の方法やその後を考えもしない。そこをどうにか変えていきたいですよね。
上岡 そうですね。あともうひとつ、実は日本では処方薬の依存症が非常に多いということは強調しておきたいのです。少し前に、子供が危険ドラッグを使っているという相談を多くのお母さんから受けていました。でも、そのことによって追い込まれたお母さんが抗鬱薬や安定剤を飲んで、いつのまにか量が増えてしまったという話がいくつもあるんです。
荻上 なるほど。
上岡 処方薬をはじめ薬物、アルコール依存などで孤立している人はたくさんいると思うので、少しでも不安があったら、我々のような専門機関に相談してほしいと思います。